『FTL: Faster Than Light』の10年間
2022.9.14
クレイグ・ピアソン
仕組み、ストーリー性、そして大惨事が絶妙に組み合わされた『FTL』は、夜通しプレイしてしまうゲームとして高い人気を誇っています。10年経った今でも、人々はケストレル号のエンジンを始動させ、未知の世界へのルートを計画しているのです。その中には成功する人もいますが、多くは失敗します。
今回、私たちは、Subset Gamesのカーク氏とピカード氏、『FTL』の制作に携わったジャスティン・マー氏とマシュー・デイヴィス氏に、自身やプレイヤー、開発者たちに与えたゲームの影響についてお話を伺いました。

『FTL』は、1年間開発者が仕事の合間を縫って制作した試作品から始まりました。これは、初めから厳しい経験でした。『FTL』のアーティストであり共同デザイナーであるジャスティン・マー氏は、「誰かに楽しんでもらえるとは思ってもみませんでした。完全に自分たちが楽しむためだけの目的で作っていたからです」と述べています。「いざゲームを周りに披露してみると、製品として成立する可能性が出てきたので、会社を設立し、Kickstarterで小規模のキャンペーンを行い、タイムリーに完成させようとしました。一歩進めるごとに、期待を上回る反応がありました」
驚いたのは、プログラマーであり共同デザイナーであるマシュー・デイヴィス氏も同じです。「人々が心から喜んでくれるようなものに雪だるま式に変化していったのです」とデイヴィス氏。「中国のIndependent Game Awards(IGF)でファイナリストになった際には、尊敬する開発者たちに会いましたが、彼らは純粋に私たちのゲームに興味を持ってくださいました。その後、PC Gamerから、このただの試作品の特集を組みたいと連絡があり、当時は訳がわからない状態でしたが、結果的にPC Gamerの記事となり、これは今でも額に入れてオフィスの壁に飾ってあります。個人レベルのプロジェクトだと思っていたものが、まったく違うものへと変身したのです」
『FTL』は、ゲーム発売前から成功を収めました。Kickstarter(1万ドルを募り、20万ドル以上を獲得)は、ゲームの進展における大きな一歩となりました。宇宙が宇宙船を分解しようとする中で、それをなんとか維持する厳しさを実際に体験したいと望む人々がいたのは明らかです。驚くべきことに、現在もなおこのゲームはプレイされ続けています。船長として指揮するファンタジーと、手続き型生成の世界による予測できない勝敗が人々の感情を揺さぶり、それがこのゲームの人気を支えている理由の一つだと、マー氏は考えています。

「精神的にかなり疲れる部分があるからこそ、人々はプレイし続けているのかもしれません。ゲームやストーリーに感情移入することはなかなかないので、強い感情を抱かせ続けられるゲームであれば、飽きることも少ないのではないかと想像しています」とマー氏は説明します。
「ダイナミックなストーリー性という要素が、多くのプレイヤーを惹きつけているのではないでしょうか。ゲームのストーリーは、作家からあてがわれたものではなく、プレイヤーがランダムなゲーム要素と相互に作用することで生まれるのです。人によっては、1回のゲームプレイの間に1人の乗組員の身の上に起こったことが、どんなに良くできた物語よりも説得力があるかもしれません。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』のキャンペーンは書籍としては平凡なものでも、実際に体験し、物語を作ることに参加することで素晴らしいものになるのと似ています」
「ストーリー性以外では、ゲームで痛い目に合うことが少なかった時代に、『FTL』が非常に困難なゲームだったことが、ひとつの要因になっているのではないかと思います。プレイヤーにとって、本当に難しい挑戦を迫られるゲームは新鮮で、最終的に旗艦を攻略できたことは大きな意味があったようです」
これにはデイヴィス氏も同意しています。「当時は、困難なゲームはまだ一般的ではなく、『ローグライク』というジャンルもまだ広く知られていませんでした。私たちは、人々に受けるデザイン要素やメカニズムで大きな潮流にたまたま乗ることができたのです。次の大きな流れに少しでも早く先回りできれば、常にメリットがありますから」
「また、プレイヤーが作り出すストーリーが、わかりやすいテーマで展開されるのも助けになります」とデイヴィス氏は付け加えます。「『スタートレック』や『宇宙空母ギャラクティカ』などは、数十年にもわたって宇宙で生き残る(そして探索する)ファンタジーを売り物にしてきました。すでに確立されたその世界観があるからこそ、プレイヤーはとても簡単にその世界に入り込むことができます。最近の似たような例で言うと、『Stray』というゲームは、「あなたは猫だ!」という単純なキャッチコピーで、即座に人をワクワクさせます。『あなたは知覚のあるドロドロの物体です!』といった奇妙なものより、『あなたは宇宙船の船長です!』の方が受け入れられやすいのです」

全く同じというわけではありませんが、『FTL』のゲームデザインの影響を明らかに受けたゲームもいくつか存在します。Bethesdaが長い間開発中のスペースRPG『Starfield』でさえ、船体の走行での重要な場面で、システムのバランスをとる宇宙航路のベースとしてこのインディーゲームを参考にしています。こういったことに、チームは謙虚な気持ちにさせられます。
「数年前、『FTL』がきっかけで開発に携わるようになったと言うデザイナーに会いました」とデイヴィス氏は振り返ります。「その理由は、『FTL』のデザインの透明性が高くて解析しやすく、ゲームの仕組みやゲームデザインを理解するのに役立ったからだと言われました。私は、透明性の高いデザインゆえにボードゲームが好きなんです。ボードゲームでは、プレイヤーにとって仕組みの明快さが要になります。ですから、デジタル上のデザインにおいて、私たちがその役割を果たせたと知り嬉しく思います。『FTL』の影響力は、『FTL』ファンやゲームメカニズムの一部を取り入れる開発者にとどまらず、もっともっと広がると思いたいですね」
同じ意見のマー氏は、「ゲームの成功で私的に最も感動したのはそこなんですよ」と続けます。「購入者数やプレイした人数というのは、あまりにも抽象的な概念ですから、その意味を熟慮するのは難しいです。よく知っている作品の開発者から、私たちのゲームが彼らのゲームにどんな影響を与えたかを説明してもらえると、より実感できるし感動しますね。そして今でも、開発者の方々は、誰もが当然知っていることを前提に『FTL』について話してくださいます。これには、今でも驚かされますよ」

ゲームの中で独自のストーリーを紡ぐファン層を無限に誕生させるゲームを作ることと、独自のサブジャンルを生み出したゲームを作ることは別物です。『FTL』の後には、『FTL』系と呼ばれるようなゲームが少しずつ着実に出現しています。『FTL』の開発者にとって、『FTL』系ゲームと見なされるために必要な条件はあるのでしょうか?マー氏に確信はありません。
「『FTL』に影響を受けたことを明示しているゲームはいくつかあります。しかし、『FTL』に大きな影響を受けたとするゲームは、『FTL』系と呼ぶにはあまりにふさわしくない、似ても似つかないものがほとんどです。私たちのマッピングシステムのデザインやテキスト表示のイベントシステムを真似していると、他のゲームについて言及する人々も多いですが、もともと私たちが最初に考え出したわけではありません。言ってみれば、みんなが巨人の肩の上に立っているようなものなのです」
「『FTL』系という言葉を定義するなら、ゲームの主要なメカニズムをすべて取り入れているゲームのことだと思います。手続き型生成された世界で、乗組員や装備によってイベントが影響を受けるゲーム。2つの静止したオブジェクトの間で、その内部構造(特に乗組員、システムパワーなど)を微調整しながら、スローな、または一時停止が可能な戦闘を行うものなどです」
デイヴィス氏も同じような考えを持っています。彼は、『FTL』の道のりは、自分たちだけで作り出したものではないと考えています。「ローグライク」という大きな世界の一部として捉えています。
「私も『FTL』系とは何かについて、はっきりと語ることができませんでした。『FTL』は、プレイヤーがこれまでに見たことのない数々のコンセプトを紹介し得ると思います。私たちが影響を受けたゲームは、数え切れないほどありますから。私たちがローグライクの世界で可能性を広げることに貢献できればと願っています。パーマデスやランダム性といった、基本的なメカニズムを練り直す新しい方法はたくさんあります。ダンジョンクローラーやツインスティックシューターである必要はないのです」
とはいえ、『FTL』のコンセプトをしっかり受け継いでいるゲームも存在します。『FTL』がなければ、おそらく存在することもなかった可能性のあるゲームの数々。これらのゲームは、緊張感がつきものの進行、意思決定、船体ベースの設定など、似ている部分を備えています。マー氏はそれらのゲームのいくつかをプレイしました。
マー氏は、「『FTL』に影響を受けたかもしれない優れたゲームをたくさんプレイしましたよ」と話します。「でも、あまりに異なったものなので、その言葉を使うのは難しいです。頭に浮かぶのは『Out There』、『Bomber Crew』、『Crying Suns』といったゲームです」
デイヴィス氏は、自分たちがインスピレーションを受けたゲームを挙げます。「逆に、『FTL』は少なくとも『Weird Worlds: Return to Infinite Space』の一部に影響を受けています。戦闘や乗組員の管理の面では共通していませんが、ノードベースの宇宙マップを飛び回り、装備を集めて宇宙船をアップグレードし、奇妙な遭遇もあるローグライクな構造になっています。つまり、このゲームは『FTL』より約10年先を行く『FTL』系なんです!」

それを考慮しても、『FTL』は今もなおゲームのテンプレート、あるいは少なくともインスピレーションになっていることは明らかですが、未来のゲームにおいて、Subset Gamesは、開発者がプロジェクトを成功させるためにどんなことをすべきだと考えているのでしょうか?
マー氏には、具体的な考えがあります。「『FTL』の電力の管理や乗組員の事細かな管理の要素に焦点を当てたゲームがもっとあってもいいのではと思っています。そこには、比較的まだ開拓されていないデザインの豊かな可能性を感じますね」
一方でデイヴィス氏は、厄介なことになりかねない部分について次のように述べています。「他のゲームからインスピレーションを得ることで、たくさんの落とし穴に遭遇することがあります。ひとつは、あるメカニズムがゲームにどう適応するか(あるいはしないか)、その影響力を十分に考慮しないことです。大抵は試行錯誤の難しいプロセスになりますが、デザインのアイデアをゲームに落とし込むことで、異なる仕組みがどのように一緒に機能するのかについて、多くを学ぶことができます。一つのメカニズムがすべてに当てはまるソリューションにはなりません」
「ランダムな環境生成=開発しやすいという考えにも疑問があります。ローグライクで実験する開発者がますます増えているので、すでに時代遅れの考え方かもしれませんが、いまだに手続き型生成=開発が早い、と思っているプレイヤーがいます。あいにく、レベルデザインの必要がない代わりに、世界観やシステム生成の細部やバランス調整に時間を取られてしまうことが多いのです。どんなローグライクゲームであれ、よりリニアであらかじめ設計されたエクスペリエンスの場合と同様に、開発に大きな時間を割くことになる可能性があります」

『FTL』は、プレイヤーや他の開発者にとって意味をなすのと同時に、自分たちがプレイしたいものを作るために1年を費やし、流行に流されないゲームを作り上げたSubset Gamesのチームに最も大きな影響を与えました。クリエイター自身に与えたインパクトは計り知れません。
「今でも『FTL』をどう捉えていいのかわかりません」とマー氏は語ります。「このゲームは、何百万人ものゲーマーに影響を与え、私たちが自分たちの手でゲームを作るという夢の追求を可能にしました。あの取るに足らないただの試作品が、私たちの人生を劇的に変えたことを考えると、今でも現実味がないんです」
デイヴィス氏の見解も同様です。「『FTL』に影響を受けたプレイヤーやデザイナーから話を聞くのは素晴らしいことですが、このゲームが他の開発者の参考になっているという事実に対する不思議な気持ちは、この先も感じ続けると思います。『FTL』のような幸運に恵まれなければ、私たちは今現在、独立して仕事をすることはなかったはずです。そのことについては、この先もずっと感謝していきます」
『FTL: Faster Than Light』はEpic Games Storeで入手可能です。