10年経った今でも、インスピレーションを受け、同時に与え続ける『Alien: Isolation』
高名な映画批評家のジーン・シスケル氏は、映画『エイリアン』第1作を「宇宙のお化け屋敷」と表現しました。 それが1979年当時のファンを魅了した理由でした。救難信号、隔離に関する危険な決定、存在そのものが脅威となる生物というシンプルなストーリーは、当時と変わらず今でも効果絶大(かつ恐るべきもの)です。 生まれるためには、人間の死が必要となる敵に対して何ができるのか? 酸性の血を持ち、殺すと最後の攻撃手段を与えてしまうものとどう戦うのか?
『エイリアン』シリーズは発表後の数年間で大きく成長し、続編や派生作品によって生物の起源や人類の始まり、そしてあらゆるレベルでの生命創造の意味が探求されてきました。 しかし、この世界の魅力は常に、生き残ることができないと思えるほど巧妙に設計された捕食者の頂点に、人類が遭遇するというアイデアにあります。
このアイデアは、Creative Assemblyが2014年にリリースしたゲーム『Alien: Isolation』で探求され、シリーズ初期のテーマに回帰し、新世代のホラーファンを魅了しました。 実際、シリーズの最新映画『エイリアン:ロムルス』は、『Alien: Isolation』において開発チームがシリーズ本来のすばらしさに焦点を絞っていなければ、存在していなかったかもしれません。
今日は、『Alien: Isolation』の遺産を振り返り、この作品によって『エイリアン』のゲーム、さらには『エイリアン』シリーズ全体がどれほどすばらしいものになり得るかを再認識させられたことについて考察します。本作は何年もの月日を経た今も、新たな『エイリアン』プロジェクトにインスピレーションを与え続けています。
生物の純粋さに魅了された10年
『Alien: Isolation』は常に、過去と未来の両方を同時に見据えたプロジェクトでした。 本作は映画『エイリアン』第1作のストーリーに続くもので、現代のプレイヤー向けにデザインされていますが、1986年の『エイリアン2』より前の物語が描かれています。 『Alien: Isolation』は、レトロなアイデアを現代に合うよう効果的に解釈したものであり、正史を乱さないよう慎重に描かれています。
『エイリアン』と『エイリアン2』の間にストーリーを置くことで、Creative Assemblyは、『エイリアン』のゲームで何ができるのかというアイデアを広げることもできました。 中心となる敵はゼノモーフそのものであり、反撃する手段はほとんどありません。 プレイヤーは、体験のほとんどでエイリアンにまったく敵わないと感じます。開発チームは生物のAIが完璧に調整されるよう多くの時間を費やしました。
2024年の現在も、同じ道のりを歩んだ他のゲームを挙げるのは難しいです。 「私たちには、1作目のエイリアンに狩られる感覚を再現するために、本当に煮詰めた、達成すべき純粋なビジョンがありました。 それが私たちが完全に目指していたものでした」とリードデザイナーのゲイリー・ナッパー氏は説明します。
それは、ナッパー氏が「メカニクスの純粋性」と呼ぶ問題であり、できるだけ多くのプレイヤーにゲームをアピールする必要性が高まっている現在では、成功させるのが難しいアプローチです。 プレイヤーは、『Alien: Isolation』のプレイ体験を受け入れ、捕食者ではなく獲物のように、自分の力不足と恐怖を感じなければなりませんでした。
『Alien: Isolation』が『エイリアン』の世界で独立した物語となるよう意図されていたことも、Creative Assemblyの助けとなりました。「大きな差別化要因のひとつとして、関連する映画がなかったことがあります」とナッパー氏は強調します。 「おかげで、自分たちが正しいと思うゲームを作ることができました」
『Halo』や『ハリー・ポッター』のタイトルに携わってきたナッパー氏は、それがいかに珍しいことかを指摘しています。 「ゲームは映画と一緒に公開される。 それがルールなんです」とナッパー氏。 「[他のゲームでは]時間に追われているため、こうした探求の余地があまりないのです」
特定の映画の公開日に合わせることを強いられなかったため、『Alien: Isolation』のチームにはさまざまなことに挑戦できる自由がありました。映画の予告編や公開されている詳しいストーリーに基づいてプレイヤーが期待するものに、制限されることもなかったのです。
もちろん、こうした実験的な試みも、本作のパブリッシャーであるSEGAのサポートなしには不可能でした。SEGAは、このチームは良くも悪くも、間違いなく注目を浴びるゲームを作るだろうと信頼していたのです。 もしSEGAがゲームの方向性に納得していなければ、このどれも実現しなかったでしょう。 「SEGAはすばらしかったです」とナッパー氏は熱く語ります。 「…まったく口を出しませんでした。 私たちが目指すものを実現させてくれたんです。 何かを見せるたび、喜びながら感心してくれました」
多くのゲームがプレイヤーに力強さを感じさせるようにデザインされているのに対し、『Alien: Isolation』はプレイヤーに、圧倒的な敵を前にほとんど無力であると感じさせるようデザインされています。 このデザインは当時のほぼすべてのトレンドに逆行していたものの、Creative AssemblyはSEGAの全面的なサポートを得ていました。
本作はその功績によって、何年にもわたり評価され、その結果2024年になった今もこうして語り継がれているのです。 おまけに、このゲームの制作とデザインに関する本も出版される予定です。
そしてリリースから数年後、ある人物が『Alien: Isolation』を手に取りその体験を大いに楽しんだことで、Creative Assemblyのチームはシリーズに影響を受けてから長い年月が経った今、自分たちが『エイリアン』シリーズそのものに影響を与えたと言えるようになったのです。
愛する世界の一部になる
『エイリアン』シリーズには、長期間コールドスリープに入っているキャラクターが数多く登場します。そしてその睡眠は、信じられないほど暴力的で虐殺的な瞬間によって中断されるのです。 これは、平和が破壊されるその瞬間まで、全てが平穏に見える世界です。
『Alien: Isolation』も同様のパターンを用いています。 リリースから何年も、話題に上り続けました。 そのデザインは、ファンからも、他の開発者たちからも絶えず議論されてきました(そして今も議論され続けています)。 そして、新しいプレイヤーも魅了し続けています。
こうしたプレイヤーの一人が、有名なホラー監督、フェデ・アルバレス(『死霊のはらわた』、『ドント・ブリーズ』)であり、彼は『ドント・ブリーズ』の公開を待っている間に『Alien: Isolation』に挑戦しました。 監督にも、暇な時間はあるのです。
その時点で、『Alien: Isolation』は映画の世界を舞台にしたゲームではなくなり、シリーズの中で独自の作品となっていました。 本作のおかげでアルバレス監督は、現代の観客向けに制作され、公開される無駄を削ぎ落とした『エイリアン』の映画がどのようなものになるかを想像し始めることができました。
「…その時は、『クソっ。可能であれば『エイリアン』を作って、この生物や環境で観客をもう一度怖がらせてやりたい』と思いました。 プレイしていて、『エイリアン』をこの雰囲気に戻せば、どれほど恐ろしいものになり得るかを実感したんです」とアルバレス氏はGamesRadarに語っています。
数年後、このアイデアの種から『エイリアン:ロムルス』が誕生しました。『エイリアン2』よりも『エイリアン』に近い、原点に立ち返ったホラー映画になっています。
「当然のことながら、映画は前作よりも派手になっていくものです」とナッパー氏は話します。 シリーズ2作目は文字通り『エイリアン2』というタイトルで、アクションや、訓練を受けた兵士とゼノモーフの激闘はどのようなものになるのかというアイデアに焦点が当てられていました。 宇宙のお化け屋敷は、宇宙の戦場へと変わり果ててしまったのです。
その後、『エイリアンVS.プレデター』の映画、ゲーム、コミックが登場し、『エイリアン』第1作の監督リドリー・スコットは『プロメテウス』や『エイリアン:コヴェナント』といった映画で、創造と破壊の関係という重いテーマを探求していきました。 続編が一人歩きを始めていました。 映画は作られ続けていましたが、原作映画のコンセプトからはどんどん遠ざかっていったのです。
『エイリアン:ロムルス』は後退しているわけではありませんが、『エイリアン』の最近の映画でよく見られる音や激しさからは少し遠ざかっています。 『エイリアン:ロムルス』は、『Alien: Isolation』と同様に、小規模なホラー寄りになっています。 皆に期待をリセットする口実を与えたのです。 『エイリアン:ロムルス』の最初のプロモーション画像には、カチンコやフェイスハガー、そして『Alien: Isolation』のセーブポイントのように見える電話が写っていました。 映画のインスピレーションとなったものを知りたければ、その電話がすべてを物語っています。
実際、『Alien: Isolation』のセーブポイントが『エイリアン:ロムルス』自体のリズムに影響を与えています。
「この映画は、何か悪いことが起こりそうになると、電話が視界に入るようになっているんです」とアルバレス監督はGamesRadarに語っています。 「ゲームでは、電話があるとわかると『クソっ。何か悪い展開が待っているぞ』と思ったものです。 映画でも同じことが言えます。 映画の至るところに、電話が戦略的に配置されているのがわかるはずです。 電話を見たら、『衝撃に備えろ』ということです」
しかし、現実はもっと複雑です。ナッパー氏は、『Alien: Isolation』を制作するにあたり、『Dead Space』シリーズやその他の古典的なSF作品にどれほど影響を受けたかを説明しています。 映画がゲームに影響を与え、そのゲームがさらに別のゲームに影響を与え、今度はそのゲームが映画に影響を与えて、その映画が再びゲームに影響を与えるといった状況です。
アートとは、影響を受けたものに敬意を表しながら、そこに独自のアレンジを加えるという綱渡りのような作業であることが多いです。 『Alien: Isolation』のチームが簡単そうにやってみせた技です。 開発中、チームはひとつのスクリーンセットで映画をループ再生し、スタジオの別のスクリーンセットにゲームのシーンを表示していました。 開発期間が長くなり、ゲームが形になっていくにつれて、2つのイメージは互いに似かよっていきました。 チームのメンバーですら、どっちがどっちなのか一瞬わからなくなったとき、何か特別なものが出来上がっていると確信しました。
何年も経った今になって『Alien: Isolation』を初めてプレイする人へのアドバイスを求めると、ナッパー氏は迷うことなくこう答えました。 「コツは、エイリアンを簡単にだませるAIではなく、罠にはめようとしてくる別のプレイヤーだと考えることです」 ゲームがリリースされた当時、プレイヤーはゼノモーフが知能のないNPCのように行動すると思い込み、自分の隠れている場所がバレているように見えるとイライラしていました。 彼らは『エイリアン』のゲームに期待できることを勝手に決めつけていたのです。
「AIを他のプレイヤーの能力として尊重し始めると、突然まったく異なる体験になります」とナッパー氏は続けます。 「そのため、動き続けてゆっくりと行動し、ビデオゲームのキャラクターではなく、別の人間と対戦していると考えるべきですね」
このアドバイスは他のゲームであれば傲慢に聞こえるかもしれませんが、『Alien: Isolation』では、その中心的な敵から本当にそのレベルの挑戦を受けられます。 この恐怖は、『Alien: Isolation』の世界観やデザインだけでなく、生物そのものの脅威や容赦ない性質からもたらされるものです。 狩られる側は、心地よい感覚ではありませんが、印象的なのは確かです。
創造性は対話です。『Alien: Isolation』はその原作にただ反応するだけでなく、直接対話に参加した稀なゲームです。 10年経った今でも、プレイされ、愛され、インスピレーションを与え続けているのも不思議ではありません。
『Alien: Isolation』はEpic Games Storeで入手可能です。