『Metroid Dread』の開発チームは、『Blades of Fire』でアクションアドベンチャーを再構築しようとしています
『Blades of Fire』は、石化した鋼の時代を舞台としています。全能の魔女の女王が放った呪文により、世界中の鋼はすべて石へと変えられてしまいました。ただし、彼女の父にかつて仕えた、洗脳された手下の軍勢が持つ武器だけは例外でした。この小さな技術的なひねりが、この独特なファンタジー世界のすべてを変えるのです。伝説のハンマーを授けられたAran de Liraは、新たな武器を鍛造して反撃できる唯一の存在となり、不本意ながらも思いがけない冒険に臨むヒーローとなるのです。
MercurySteamの『Metroid Dread』の待望の続編となる『Blades of Fire』は、戦略的な戦闘、剣と魔術が豊富なファンタジー世界、そして無限のカスタマイズを実現する深い武器鍛造システムを備えた、アクションアドベンチャーのジャンルの再構築を目指す新しいIPです。プレイヤーが鍛造する武器はどれも唯一無二であり、それぞれが独自の運命を切り開くことになります。プレイヤーは、キャラクターをビルドするのではなく、武器をビルドするのです。
私たちは先日、『Blades of Fire』のオープニングステージをプレイし、どのようにしてアクションアドベンチャーを再構築し、プレイヤーに武器について新鮮な視点で考えさせるのかについて、開発チームに話を伺いました。
サイクルを閉じる
MercurySteamの共同創設者でありCEO、かつゲームディレクターのエンリック・アルバレス氏にとって、ここに辿り着くまでの道のりは長いものでした。鉄鋼の時代の前に2,000年にも及ぶ青銅器時代があったように、『Blades of Fire』はマドリードを拠点とするスタジオがその技術を磨き、名高い評判を築き上げるのに費やした24年間の旅の集大成なのです。
2001年、MercurySteamの創設メンバーたちはRebel Actで働いていました。そのスタジオが発売したゲームはただ一つ、『Blade of Darkness』だけでした。このPC向けのカルト的名作は、最小限のストーリーテリング、スタミナ主導型の高難度な戦闘、そして救いのないダークファンタジー世界によって、『Souls』シリーズの先駆けと見なされることがあります。『英雄コナン』や『指輪物語』(ピーター・ジャクソンによる映画化前の作品。同氏による『ロード・オブ・ザ・リング』が公開されたのはその年の12月でした)の影響は強く、爽快な剣と盾のアクションと壮大なスケールが融合した作品でした。時代を先取りし過ぎていたのかもしれません。『Blade of Darkness』は十分なファンを獲得できず、Rebel Actはその幕を閉じました。
それから20年が経ち、MercurySteamは見事に立ち直ったと言えます。駆け出しのスタジオだった彼らは、ホラーFPS『Clive Barker's Jericho』の共同開発で早くから高い評価を得ました。その後、KONAMIを説得し『Lords of Shadow』三部作で『Castlevania』の再構築を任されることになります。彼らは、シリーズの長い歴史の中で最も売れたタイトルを生み出すことで、KONAMIの信頼に応えました。
ひとつの名作シリーズを成功させた後、MercurySteamは『Metroid』に取り掛かります。チームはまず、3DS向けリメイク作品『Metroid: Samus Returns』で任天堂を感銘させました。次に、まったく新しいタイトルのために裁量を与えられた彼らは、さらに優れた『Metroid Dread』を2021年にリリースして任天堂とファンを圧倒しました。このタイトルは、その魅力的なペーシング、洗練されたゲームプレイ、そして卓越したボス戦によって、Game of the Yearにふさわしい作品となりました。
MercurySteamの評価が最高に達し、ついに彼らが情熱を注いできたプロジェクトに戻る時が来ました。それは、『Blade of Darkness』の精神的続編です。アルバレス氏が言うように「MercurySteamが誕生するきっかけとなったゲームと開発者に敬意を表する」ために、彼にとって重要な意味を持つジャンルを再び制作することになったのです。
80年代に育ったアルバレス氏は、当時のファンタジー映画の名作、『エクスカリバー』、『プリンセス・ブライド・ストーリー』、『レディホーク』、『ダーククリスタル』、さらに、視野を広げてくれるSF小説『ソラリス』や『Limbo』、ゴシックファンタジーの『カーミラ』、そして『ウォッチメン』や『アキラ』のような野心的なグラフィックノベルに夢中だったと語ります。
「自分のささやかなお小遣いは、いつも本屋やコミックショップ、映画館、町のゲームセンターに消えていきました」とアルバレス氏は言います。「それらすべてを組み合わせた何かをやったらすごいことだと思ったんです。どうやってそうなったのかはまだわかりませんが、それがまさに起こったんです!」
「私たちにとって、1つのサイクルを閉じるようなものです」と彼は付け加え、その熱意が伝わってきます。「私たちは、剣と魔術のゲームからスタートしました。とても暗く、非常に荒々しく、難易度の高い戦闘が特徴でした。もう何年も、その設定に戻りたいと思っていたんです。ついに、その機会を手にしたのです」
剣と魔術の復活
Aran de Liraは、思いがけない悲劇の英雄です。彼は隠せいした人生を送ってきました。かつては、王族の中で快適な生活を送っていましたが、破滅的な出来事によってそれは終わりを迎えたのです。彼は、後悔を抱え、顔には深い傷が刻まれ、精神的にも身体的にも傷を負ったまま、孤立した小屋に住んでいます。Aranは白髪混じりの中年の男性で、自分が共感できるキャラクターを書くことにした、彼のクリエイターのような人物です。過去を持ち、後悔がありながらも、それでもなお英雄になることを期待されていた人物です。
「これは、償いの物語ではありません。彼には償うべきものは何もありません。これは、再会の物語なのです」とアルバレス氏は言います。
それはおそらく幸せな物語ではないでしょう。というのも、アルバレス氏はアレクサンドル・デュマの有名な復讐小説『モンテ・クリスト伯』が持つ、抗いがたい感情的な影響について語っているからです。反逆罪で不当に投獄され、14年もの間苦しんだ伯爵のように、Aranも痛みを伴う(そしてまったく不当な)代償を払いました。過去に多くの悲しみを経験し、大人になった彼は、運命に奪われたものを取り戻し、長い間失われていたロマンスを再燃させようとします。
Aranには、完全に助けがないわけではありません。仲間であるAdsoは、無口で筋肉質な主人公であるAranとは正反対で、熱心にメモを取るおしゃべりで知的な人物です。『ゴッド・オブ・ウォー』でアトレウスが戦闘でクレイトスに与えるような控え目な援助(その続編は言うまでもなく)さえも期待してはいけませんが、Adsoの脆弱さは彼の知識と呪文生成によって補われています。
Adsoやプレイヤーが出会う他の仲間たちは、この世界へと誘ってくれます。今のところ私のお気に入りは、いつもおんぶをせがむかわいい骸骨の子どもです。彼の物語を知った後では、それを断ることはできません。
任務を命じられると、Aranは渋々と小屋から出発し、「女王を殺す」という明確でシンプルな使命を負います。とはいえ、洞窟の周りを無害に跳ね回る殻付きのカエルや、甲殻に光る炎が埋め込まれた昆虫といった、独創的な奇妙さに満ちたこの鮮やかなファンタジーの世界では、物事はそれほど単純ではありません。序盤の集落や沼地エリアなどの比較的馴染みやすい雰囲気はすぐに、より野心的なデザインに取って代わります。例えば、『Blades of Fire』の序盤のハイライトとなる、丘の上に建つ巨大な木造の城であるCrimson Fortなどです。
開発者として、アルバレス氏は自分を怖がらせるアイデアを求めていると言います。その過程は恐ろしいかもしれませんが、結果がそれ自体を物語っています。「最初は動揺しました。絶対に上手くいかない!と。ちゃんとした城を作るには、石が必要なんです」そうアルバレス氏は言います。
しかし、彼は粘り強く取り組み、MercurySteamのアートチームは疑念を持つ人々の方が間違っていたということを証明しました。同じ感情の連鎖が後に、ネクロポリスのレベルでも繰り広げられました。そこでは、従来のキリスト教の墓地の影響を避け、もっと古くて奇妙なルーツに基づいたものとなりました。それは、人類が知ることのできない謎めいた伝説の祖先たちのための埋葬地です。
アートディレクターのアルトゥーロ・セラーノ氏は、『Blades of Fire』が古典的なファンタジーの荒々しさを呼び起こすことを意図しており、『英雄コナン』のアーティストであるフランク・フラゼッタやダンテの『新曲』の深く歪んだ描写で知られるフランスのイラストレーターであるギュスターヴ・ドレを参考に挙げています。「私たちは、彼らの影響を現代のビデオゲームでしか達成できないレベルのディティールとダイナミズムにまで昇華させることを目指しました」とセラーノ氏は言います。「これは、鮮やかな色、ドラマチックな構図、そしてカリスマ的なキャラクターを意味します。デザインにおいてよりリアルで、過度に繊細になりがちな現代のファンタジーとは異なり、私たちはもっと表現力豊かで創造的なアプローチを求めました」
無知を武器とする
この世界では、すべての秘密を1度に明かしたりはしません。長い孤独を経験し、言葉少ない男であるAranのように、『Blades of Fire』では手取り足取り教えてくれることはあまりありません。
「これはストーリー主導型のゲームですが、手取り足取りすべてを教えるようなゲームではありません」とアルバレス氏は言います。「プレイヤーが能動的に行動することが求められるゲームです。プレイヤーも、キャラクターたちが今まさに通り過ぎている場所について何も知らない、ということを共有することになります」
その感覚は、私のプレイの序盤から明らかでした。しばしば混乱や戸惑いに包まれた後、やがて驚き、そして発見が訪れるのです。マップを解放したものの、はっきりとした目的地のマーカーや森の地面に沿って光る道筋が与えられることはめったにありませんでした。
代わりに、鍛冶職人の手がかりを求めて沼地を探すように指示され、最初の集落エリアを区画ごとに几帳面に探索しながら、悪臭を放つ湿地や正しい方向へ進んでいるという証拠を探し求めました。私は、Queen’s Hounds(女王のただの手下たち)の危険な小隊や、岩のような手足を持ち、今の武器では歯が立たないトロール、狡猾な精霊が住む沼地、そして次々と広がり絡み合う道を発見しました。
そしてついに、私は偶然にも沼地に足を踏み入れたのです。近くの中間ポイントでひとときの休息を取る機会はありました。その直後、骸骨たちの群れに襲われて、あっけなく倒されるまでは。
MercurySteamは没入感を重視し、『Blades of Fire』に説得力のある世界を作り上げ、プレイヤーにその世界を解き明かす責任を託しています。武器は見つかりません。素材を集めて、手作りで鍛造するのです。仲間は戦闘中にどの武器を使うべきかは教えてくれません。武器やスタンスを試す(または解決策を見つけ出すために、Adsoの膨大なノートを読む)責任は、あなただけにあるのです。
MercurySteamが最後に近接戦闘中心のアクションゲームに取り組んだのは、2014年の『Castlevania: Lords of Shadow 2』でした。それ以来、多くの変化がありました。アルバレス氏は、現代のアクションアドベンチャーの物語デザインでは、直線性が失われたと説明します。
「『Blades of Fire』では、プレイヤーが物語を進めるペースを自分で決めます。15年前は、その逆だったんです!物語が主導権を握っていて、プレイヤーはそれに従っていました」と、彼は言います。
さまざまな順序でイベントをトリガーできるような、豊かでエキサイティングな環境を作るといった期待に応えることは、狭い廊下からカットシーンに入るといった以前のシンプルな構造と比べて、極めて難しい挑戦です。「それは、新しい言語を話すようなものです。考慮しなければならないことが、多くあります」
自分の武器を鍛造する
最も難しい課題は、ゲーム全体をひとつにまとめるメカニズムである、Forge(鍛造)でした。無限の可能性を生み出すように設計されたメカニズムは、ゲームの他のすべての部分においても同様に無限の波及効果をもたらしました。アルバレス氏は、彼らが行ったすべての変更を、トランプでできた家からカードを一枚動かすことに例えています。それは、しばしば倒れたピースを拾い集める羽目になる、リスクを伴う行動であるということです。
「鍛造とは複雑なものです」とアルバレス氏は言います。「人類は昔から、武器、刀、そして鋼でできた兵器を鍛造してきました。鍛造の科学と技巧は計り知れませんが、私たちはこれをどのように人々に伝えるかを選ばなければなりませんでした。それは、エンターテイメントであり、戦闘体験に役立つものでもある必要がありました」
『Blades of Fire』でまず必要なのは、素材です。主に敵を倒したり、目に見える破壊できるものすべてを壊したりすることでランダムで手に入ります。次に、Forge Scrollを選択します。ここには、7つの武器ファミリーに分かれたたくさんの武器デザインがあります。Forge Scrollは時間とともに解放されるので、それまでに獲得したデザインから選びます。
その後、武器のコンポーネントを選択して、その数々の妥協点を比較検討できます。例えば、希少なReaper Steelから作られた斧の先は、スタミナとスピードを犠牲にして、大きな斬撃力と耐久性を加えます。一方、Unyielding Steelの場合、非常に高い耐久性が追加されます。これらの決定を、各武器の8つの異なる部分にわたって繰り返すのです。
出来上がる武器は、プレイヤーの好みや利用可能な資源に合わせてカスタマイズするか、あるいはその時点で突破不可能な敵の弱点に対処するために設計します。
デザインを選び、素材の準備が出来たら、いよいよ鍛造です。金属を叩いて刀の形にするという、驚くほど集中力を要するミニゲームが登場します。棒グラフから芸術を生み出すように、ハンマーを何度も何度も振り下ろし、溶けた金属の塊を優美な形に広げ、へこみや隆起を滑らかな形に整えます。武器を完全な状態になるまで修復できる回数は、プレイヤーの成功と望み通りの形になるまでの時間によって決まります。武器ごとの最高スコアは保存されるので、自分のベストパフォーマンスに満足しているのであれば、タスクを繰り返す必要はありません。
炎の剣がいつも燃えるとは限らない
多くの実験を経て、最も誇れたものは、私の最初のFlamed Bladeでした。火という単語が入ったゲームタイトルを考えると、「Flamed Blade」は剣から炎が噴き出し、肉を焼き、鎧を溶かすような驚異的な武器であると想像するかもしれません。
Aranが手に持っていたものは違いました。それは違った意味で、素晴らしいものでした。炎は比喩的なもので、私のフランベルジュの刃の縁に沿って走る、うねる波のような独特の模様のことでした。この模様は単なる装飾ではありません。折れやすい弱点を作るのではなく、各攻撃の力を均等に分散させることで耐久性を高めるのです。その結果、耐久性が高く、長い武器に仕上がり、遠距離から危険な敵を突き刺したり、骸骨の戦士のような弱い敵を一掃したりするのにお気に入りの武器となりました。
断面、柄頭、色々な種類の鋼の特性、そして信頼できるフランベルジュを作り出すための鋼の鍛造に関する本質的なディテールに、自分がこんなにもこだわるとは思ってもいませんでした。私はそれを作り、デザインしました。素材を選び、それから手作りで金属を鍛えて、自分の能力の限り形にしていきました。その途中、まるで『XCOM 2』のお気に入りの兵士や『Football Manager』のストライカーに愛着を持つように、私は自分の一部を道具に捧げていました。
『Blades of Fire』では、Aran自身はレベルアップしません。キャラクターシートや、アンロックできる特殊技や魔力のリストは決して見ることはありません。すべては、Forge(鍛造)と鍛造でプレイヤーが作る道具次第なのです。死んでも、通貨やクラフト素材、あるいはソウルライクゲームの経験値アイテムを落とすことはありません。極めて重要な道具である武器を失い、自分が死んだ地点の武器が残る場所から、それを取り戻すために戦わなければなりません。
武器を作り変える
リードゲームデザイナーのホアン・アマット氏は、砂上の楼閣であるForge(鍛造)システムと戦闘の設計を担当しています。彼は私に、Forgeを作り上げるためには、これまで探究されてこなかった物理特性に重点を置きつつ、チームの武器に対する見方を再評価しなければならなかったと語ってくれました。
まず彼らは、歴史的な武器に関するYouTuberたちの動画を深く掘り下げ、武器の最も重要な特性と考えられるものを研究しました。アマット氏は、ゲームでの剣についての考え方のほどんどは、現実とは異なると説明します。「[歴史を扱うYouTuberたち]は、刃について話します。彼らは、バランス、重心、グリップ、そして扱い方や刃の向きについて語っています。彼らが言っているのは、敏捷性、強さ、スタミナ、知性、機敏さではないですよね?そういうものはステータスではないのです」
いかなる武器の機能も、そう機能する理由はその設計と素材にあります。これらによって、腕を振った時の運動エネルギーがどのように致命的な斬撃、突き刺し、または打撃の威力に変換されるかが決まります。
チームは、鋼の根本的な物理特性について疑問を抱くようになりました。「刃物の鋭さはその刃から来ているが、その刃を鋭くするのは何か?」といった風に。
アマット氏は、刃はストレート、凹型、凸型などさまざまなデザインに対応できると発見しました。これらの特徴は、より強力な貫通力を持つ武器を生み出しますが、その代償もあります。例えば、耐久性の低下、刃がすぐに鈍る、または複雑な刃の形状により研ぐのに時間がかかるといったものです。同様に、心鉄や刃のデザインに使われる鋼は、異なる特性をもつ異なる合金を使用しており、大きな違いを生みます。
この複雑な要素の組み合わせは、 『Blades of Fire』で作られるすべての武器に使われています。もちろん、これは合理化されています。例えば、『Dark Souls』でキャラクターの鼻の大きさを決めるように、剣の長さをミリ単位で指定するといったことはありませんが、それでもさまざまな指標で武器を判断することになります。これらが組み合わさることで、プレイヤーは特化を促され、形状と機能を適切に合わせることになります。素早く振り回しても、スタミナを多く消費することのない、長い武器は作れないのです。その代わり、状況に応じて、ツインアックスやククリナイフに切り替えるのが賢明でしょう。
最初、MercurySteamは素材に関する技術的な要素に少々深入りし過ぎていました。硬度、柔軟性、そして、頑強性は、材料工学のエンジニアが鋼について重視する特性です。炭素が多いほど強度が上がり、クロムが多いほど柔軟性が高くなります。Forgeが、ゲームの核となる部分を充実させるどころか、足を引っ張るシミュレーションになってしまうリスクがありました。
特に、剣のタイプとアーマーの相互作用を再現した初期の実験は、複雑になりすぎたとアマット氏は言います。例えば、衝撃の範囲が大きいほど、アーマーはそれに対してより効果的に防御する。こん棒はプレートアーマーに当たると跳ね返るものの、槍はそれを貫通する、などです。それは興味深いものでしたが、直観的ではなく、伝えにくいものでした。プレイヤーは攻撃を避けながら、敵の鎧が鎖帷子なのかプレートアーマーなのかを判断するのに苦労するかもしれません。
その解決策は、『Blades of Fire』から不必要な複雑さを加えていた要素を取り払い、簡素化することでした。Forgeによって生み出されるデザイン同様に、彼らのシステムも鋭い一点に磨き上げる必要がありました。
戦略的なチャレンジ精神の創造
カスタマイズは、ミニマックス、つまり万能の武器を作る方法を最適化したいという衝動を引き起こします。開発の早い段階で、チームは 『Blades of Fire』がそうした衝動に応じた場合、どうなるかを調査しました。
このバージョンでは、Forgeはスケーリングを中心に展開しており、プレイヤーの目的は、ダメージ倍率を重ね合わせてさらに大きな数値を生み出すことでした。まさにこのプロセスは、 『Path of Exile』の終盤で、非常に高いダメージを出すための設計や、 『Balatro』でジョーカー効果の連鎖を引き起こした後に、驚異的な得点を積み上げることに喜びを感じる場面で見ることができます。
MercurySteamはその機能を取り除きました。現在、『Blades of Fire』における決定は、単純に武器ステータスに足し算か引き算が行われるだけで、掛け算の要素は見られなくなりました。
なぜ、確実に快感を与える要素を切り捨てたのでしょうか?その理由の1つは実用的なものでした。非常に高い比率でスケーリングすることの複雑さは、バランスを保ち、ゲームを崩すコンボを制限するために(もちろん削除などできません)、膨大なプレイテストのリソースを必要とするからです。そして2つめの、より重要な理由は、ゲームプレイがカスタムメイドの戦略的なパズルではなく、数学の問題に成り下がってしまったからです。
完璧な武器というものはありません。それぞれの敵は異なるスキルを試すべきで、完璧に強化されたビルドでただ叩きのめされるだけの存在であってはなりません。一部の敵はガードを崩さないため、ウォーピックのような体勢を崩す効果が高い武器が必要になります。中には後方に身をかわす敵もいるため、彼らのステップに合わせて届く範囲を広げるか、優れた持ち運びの能力を要します。耐久性を試す敵もおり、その場合は操作性が良く、一撃あたりのスタミナ消費が少ない武器を必要とします。
「ステータスの組み合わせを重視するやり方から、チャレンジ精神に基づく方法へと移行したとき、バランス調整がずっと楽になりました」とアマット氏は言います。「敵が、何かに対しては強く、別の何かに対しては弱い、ということだけを考えればよくなったのです。パワーバランスの複雑性が重要な素晴らしいRPGは他にもたくさんあります。このゲームは、そういうものではありません」
仕組みとして、 『Blades of Fire』は問題を解決するゲームです。状況次第で武器の価値が決まります。Roman Legionnaires(ローマ軍の兵士)の短い剣は、約60センチ以上離れた敵に対しては役に立ちませんが、部隊として一斉に突き出すことで、致命的な効果を発揮しました。アマット氏は、YouTuberであるSkallagrimのエジプトのケペシュについての解説を特に楽しんだと言います。ケペシュは、その短い刃のためにリーチが制限される、鎌型の銅製の剣です。そのデザインはソフトメタルでできた他のツールよりも優れた切れ味を保ちながら、作物の収穫に役立つ道具としても機能します。
これは、特定の用途に向けて素材の制約を考慮しながらデザインする一例です。「これこそが、プレイヤーに持ってもらいたい気付きなんです」とアマット氏は言います。
単なる一つの武器ではない
武器は単なる物体ではありません。鋼の魅力的な光沢は、その物理的なパーツから感じるだけではありません。『ゼルダの伝説』のマスターソード、『ファイナルファンタジーVII』のクラウドのバスターソードや『DOOM』のチェーンソーであっても、あるいは博物館に展示されている貴重な武器でも、その魅力は歴史を通じて築かれた感情的なつながりから来ているのです。
『Blades of Fire』でも、それは同じです。武器に名前を付け、必要な手入れをし、後にそれを溶かして部品にするのか、あるいは思い出の品として持ち続けるかを選びます。これは、多くの文化が、砕けた剣や鈍った剣を誇らしげに壁に掛けるといった風に、伝説の武器を大切に保存している様子を反映しています。
「武器はスケーリングしません。武器は強化されないのです」とアマット氏は説明します。「武器を作ったら、現実にはその武器は強化されることはありません。道理にかなわないでしょう!なぜ祖父の刀はこんなに優れているのでしょうか?その刀が作られたときには素晴らしい武器でしたし、きちんと手入れをしていれば今でも優れた武器のままです。しかし、実際にはその刀で何が成し遂げられたか、その評判によるものなのです」
『Blades of Fire』の評価の仕組みでは、より多くの敵を倒すにつれ、武器の評価が高くなります。武器は評価と追加の価値を得ると、鍛造の名人の魔女であるGlindaと、より良い素材と交換することができます。アマット氏は、プレイヤーがお気に入りの武器を引退させる時が来たとき、どのように反応するのかを見るのが待ちきれません。彼はプレイヤーに自分の武器との関係を築いてほしい、道具に感情的な重みを含ませたいと考えています。これは、数多くの日本にインスパイアされたテーブルトークRPGで彼が経験したもので、それをここでも再現しようとしています。
所持する鋼を試す
ここまでで、物理学、材料科学、そして他の多くのゲームが当然のように扱っている数多くの決断、それらすべてが『Blades of Fire』の武器作りの過程に関わっていると理解できました。自分の鋼を試す時が来たら、どうなるのでしょうか?
MercurySteamは、フィジカルで戦略的、そして結果的な戦闘システムを作ることを目指しました。これは武器についてのゲームである、とアマット氏が言う時、彼は本気です。派手な魔法攻撃はありません。武器には4方向への攻撃と、切りつける動きと突き刺す動きという2つのスタンスがあります。攻撃の回避、防御、受け流しもあります。それだけです。あとはすべて、プレイヤーのスキルと武器の能力にかかっているのです。
チームは、ほとんどのアクションアドベンチャーの特徴である、特殊能力や魔術のアンロックを見落としてしまったのでしょうか?
「ゲームの終わりに、Aranを魔法の神に変身させることなんてできませんよね?」とアマット氏は言います。「武器に火の玉を撃たせたり、他の目を見張るようなことなど、できることはたくさんあります」
「それは、私たちの目的ではありません!私たちの目的は、すべてを本当に価値のあるものにすることです」と彼は続けます。「画面をVFXで埋め尽くして、キャラクターを非常にパワフルに感じさせることはできます。しかし、プレイヤーには、意味があることをしているからこそ強力なんだと感じさせなければなりません。プレイヤーが、その武器を振り回し、その武器を作り、敵は遠距離武器を持っている。私はその問題を解決しなければなりません」
アマット氏によると、10年前のハックアンドスラッシュゲームは一般的にもっと壮大で、華麗なアクロバット的な動きやや特殊技に満ちていました。現在は、アクションはより抑制的に表現できます。アクションは、パーティクル効果や流血に満ちた 『Devil May Cry』や『ベヨネッタ』のようなスタイルのコンボに埋もれるよりも余裕を持たせることで、より意味を持つのです。
アマット氏は、 『Blades of Fire』の戦闘を、それが野生の獣相手でも、巨大なウォーハンマーを持ち脅威的なHPを備えた中世のSpace Marineのようなミニボス、Mayhem Warmongers相手でも、黒澤映画の決闘に似ていると捉えています。一時的な静止が非常に重要です。お互いを見極めるための緊張の瞬間であり、状況を判断し、スタンスを調整し、武器を選び、その切れ味を試し、足りないと感じたら研ぐための瞬間なのです。その後に、戦闘が始まるのです。
『Blades of Fire』では、無意味な戦闘や些細な戦いはありません。敵はAranと同じ、基本的な防御スキルにアクセスすることができます。たとえ、プレイヤーの武器が二撃で敵を倒せるとしても、その二撃を当てることは簡単ではありません。
ぴったりな例が、Vexersです。この予測不可能のサルのような敵は、剣をホッピングのように使って跳ね飛びながら向かってきて、素早く宙返り攻撃を繰り出してきます。「私たちはこれらの敵を、ほとんど無秩序の動きのスタイルでデザインしました。プレイヤーはパターンを覚えるというよりも、その動きに反応せざるをえないのです」とセラーノ氏は説明します。「彼らが剣をトランポリンのように使うというアイデアは、プレイヤーに常に『次は一体、何をしてくるんだ?』と自問させたいという私たちの願いから生まれました」
意図的な慎重さ
これらの戦闘のリズムは、意図的に慎重なものにされています。私は、フラスコ以外で体力を回復する方法は見つけられなかったですし、敵の攻撃を中断させるのも困難です。攻撃を仕掛けてひるませようと試みましたが、優位に立てることはほとんどありませんでした。その代わり、隙を探し、タイミングの良い攻撃で緑のインジケーターで示された弱点に当て、カウンター攻撃を仕掛けました。
アマット氏は、敵を阻止できるかどうかは、戦闘のペースを落とし、慎重なリズムを作り出すための多くの要素のうちの一つに過ぎないと認めています。それは目に見えない裏のステータスですが、非常に重要です。「敵を阻止することは、簡単にはできません。それが、戦闘のペースを落としているのです。もし簡単にできれば、すべてがスピードアップするでしょう。主導権を持っていれば、常に先にダメージを与え、先に行動を起こすことになります。そうなると、ゲームは致命的ではなくなるでしょう。もし、ただ攻撃を繰り返すだけなら、敵はもっと多くのHPを持っているでしょう」
ただし、一部の武器は例外です。ツインアックスを装備すると、突進しながら次々と攻撃を繰り出すことになります。このスマッシュアンドダッシュ(一撃の後に素早く退く)アプローチによるたくさんの打撃によって、一体の敵をひるませる最高のチャンスが生まれますが、これには側面を攻撃されるというリスクを伴います。ウォーハンマーや他の重量のある武器も、振りかぶりに時間がかかって攻撃までが長いという代償はありますが、敵をひるませるチャンスがあります。
MercurySteamがリアリズムにこだわっているにも関わらず、中世の戦闘に不可欠な道具の中で使わないものが1つあります。それは盾です。盾を追加するとすべてが歪んでしまうため、考慮されることはありませんでした。Forgeの物語が変わってしまいます。あなたが、盾職人でもあったとします。戦闘の質感があまりにも慎重すぎて、安全になってしまいます。手に剣を持ち、未知の世界に挑戦するという壮大なファンタジーでは、反対の手に重い盾を持っていたらあまり大胆に感じなくなっていまいます。盾なしで歴史的な戦いに挑むのは愚かなことかもしれません。しかし、『Blades of Fire』ではそれが存在しない方が良いのです(そしてさらに良いことは、アマット氏がかつて検討していたと言っていた、武器が盾や鎧に引っかかる可能性がないことでしょう)。
すべての物事には終わりがあるべきで、武器の限りある寿命もそれに含まれています。武器の耐久性は、両刃の剣(言葉遊びをお許しください)であることが証明されています。『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』のような正真正銘のモダンクラシックでさえ、武器の劣化は、その最も物議を醸す特徴の一つと広く見なされており、特に唯一無二のマスターソードにそれを適用するという冒涜的な行為が論争の的になっていました。
武器の劣化に関わる決定とトレードオフは、『Blades of Fire』での旅において重要な役割を果たしています。プレイヤーは、自分の道具に対して希少な責任を託されています。自分の最高の武器を使って、腐敗したゾンビを二撃で倒す代わりに一撃で倒すなら、犠牲を払って手早く片付けることになります。極上の剣で樽を粉々にするときも同じです。壁にぶつけるたびに、その耐久性が失われます。「フェラーリで食料品の買い物はしたくないですよね?」とアマット氏は言います。「このことが、武器にさらなる次元を与えるのです」
ここでは、武器の劣化により、継続的な実験が余儀なくされます。選択の余地はありません。次の武器はおそらく異なるものになるでしょうし、敵のデザインによって新しいアプローチや新しい道具へと駆り立てられるでしょう。
自分の伝説を鍛える
独立系のデベロッパーであるMercurySteamは、他の会社の知的財産を使った優れた職務著作のプロジェクトで最も知られています。彼らはそのモデルに慣れ親しんでおり、その中で見つけた創造的な自由さと成功に満足しています。「自由ではありませんが、自分自身の翼を持っています」とアルバレス氏は表現します。しかし、新しい知的財産はどのスタジオにとっても、将来を確保するための強力な資産です。
現在、『Blades of Fire』を備えた彼らは、何があっても前進する準備ができています。「『Blades of Fire』は、自分たちの運命を握るための、私たちの試みなのです」
『Blades of Fire』は5月22日(米国時間)にEpic Games Storeでリリースされます。