『The Lord of the Rings: Return to Moria』の開発の舞台裏を深掘りする

2023.12.25
執筆:寄稿者:マリー・アタラー=グライム

「どこまでも続く暗いトンネルを行くしかない。 油断するな。 この地底深くには、太古のむかしより恐ろしい魔物が潜んでいる」『ロード・オブ・ザ・リング:旅の仲間』でガンダルフはこう言いました。

Free Range Games開発、North Beach Games販売の『The Lord of the Rings: Return to Moria』は、戦略とサバイバルを中つ国の古代ドワーフ文明と融合させたサバイバルクラフトゲームです。 プレイヤーが『Return to Moria』に足を踏み入れた瞬間から、ファンフィクションから正式な物語までの土台となった作品への情熱と愛情がひしひしと感じられ、このゲームをユニークかつ正統性のあるものにしています。

本作のディレクター、ジョン=ポール・デュモン氏とストーリーデザイナー、ファラー・カーン氏との今回のインタビューでは、『Return to Moria』の伝承を深く掘り下げ、その舞台裏を除くことで伝説的な鉱山に命を吹き込んだインスピレーションや挑戦が明らかになります。 カザド=ドゥーム(Khazad-dûm)の壮大な洞窟と、情熱的な開発者たちの創造力を探検する旅に、皆さんをお連れしましょう。
 

Ihâruz amtarmênu! (クズドゥル語で「山々へようこそ!」の意)


サウロン討伐後の物語をどのように進めていくかを検討する際、あなたやチームはどのような点に配慮しましたか? 自由な創作を許可されたのですか?それとも直接トールキン財団と協力したのですか?

ファラー・カーン:『The Lord of the Rings: Return to Moria』へのアプローチは、常に「伝承第一」でした。そのため、サウロン討伐後のゲームと『指輪物語』三部作の出来事について考えた時、私たちの第一の目標は、世界観と物語に正統性があり、同時に楽しめるものにすることでした。

このことを念頭に置いて、チームが最初に考慮したのは、カザド=ドゥーム・モリアや霧ふり山脈、ドワーフの文化や歴史に関わる参考について、関連する登場人物や中つ国の歴史における重要な瞬間を含め、核となる書籍『ホビットの冒険』『指輪物語』三部作に立ち返ることでした。

また、3人の伝承の専門家も迎えました。 T・S・ルイカート氏はテーブルトークRPGに携わった経験があり、初期段階からストーリーの構築に協力していただきました。 「トールキン教授」として知られるコーリー・オルセン氏からは、テーマや世界観についてのフィードバックを得るため、後から(ストーリーをすべて書き上げた時点で)参加していただきました。 また、言語学者のデヴィッド・サロ氏には、クズドゥル語(Khuzdul)の創作を手伝っていただきました。 もちろん、Middle-earth Enterprisesとは定期的に開発中の内容を共有していました。

最後に、ゲームとその物語を進めるうえでのプレイヤーの体験や旅路についても考慮しました。 ギムリの呼びかけに応えて、初めてモリアに入る第四紀のドワーフになったかのような感覚をプレイヤーに確実に味わってもらうために、敵との遭遇から新しい環境まで、ゲーム内のあらゆる体験を技術的にどう結びつけるかをチームは常に考えていました。
Lord Of The Rings Return To Moria 2
第四紀についての情報は極めて少ない中で、どの伝承を盛り込み、何を創作するかをどう決断したのですか?

カーン:第四紀は、特にドワーフに関してほとんど知られていないため、中つ国の興味深い時代です。 どの伝承を盛り込むかについては、プレイヤーが体験することに焦点を当てながら、まずはゲームでどんな物語を伝えるのかを考えました。特にドワーフの視点から、プレイヤーがカザド=ドゥームを旅する際に、論理的にどんなものを見つけるかですね。

前述したように、核となる書籍が私たちの最初の基準点でした。 私たちは第四紀までの出来事を時系列に並べるために「既知の事柄」を特定し、取り入れる必要がある重要な場所や環境についても検討することを試みました。

そこから、クリエイティブになる余地のある「未知の部分」に目を向け始めました。 こういった隙間を埋めるために、まず私たちは何を理解しようとしているのか、プレイヤーに何を紹介し、どんなことを共有したいのかを自問するという取り組みを行いました。

ネタバレにならない範囲で例を挙げると、私たちが開発初期に自問していたのは、「ミスリルはなぜモリアでしか見つからないのか?」、「なぜ不死のドゥリンは特にこの場所にカザド=ドゥームを築くシンボルを授けられたのか?」、 「なぜバルログは霧ふり山脈を逃亡先に選んだのか?」、「ドゥリン六世が死亡した翌年から、ナーインが殺されてカザド=ドゥームを撤退するまでの間に何が起きたのか?」、 「サウロンの討伐後、オークの各派閥はどうなったのか?」といったことでした。

その後、こういった詳細をプレイヤーの体験や『Return to Moria』のストーリーにとって自然だと感じられるような方法で、どのように共有するのが最善であるかを検討しました。

原作にどの程度忠実であることを目指したのですか? それとも、原作を創作過程の指針として捉えていたのですか?

カーン:チームの誰もがトールキン博士が作り上げた作品とその世界に深い敬意を抱いていたので、原作はまさに進むべき方向を示してくれました。 プレイヤーの皆さんには、自分たちがモリアの古代の広間や鉱山、洞窟を歩く中つ国のドワーフであると感じて欲しいのです。

もちろん、私たちはいくつかの特別な選択をしましたが、その選択も、トールキンの著作の中にあるテーマやメッセージにできるだけ忠実であることを基本としています。

ギムリとドワーフが、失われた古代の王国を再び取り戻すことを軸に展開するゲームの伝承的な推測をどのように扱いましたか?

カーン:鍵となったのは、ドワーフの視点から物事を見ること、そして補遺からわかっていることでした。 たとえば、ギムリがミナス・ティリスの城門をミスリルで再建するとアラゴルンに約束したのはわかっています。 ドゥリン七世がカザド=ドゥームを再興させたこともわかっています。

具体的には、『Return to Moria』の物語において、これがギムリにとって何を意味するのかに注目しました。 ギムリは燦光洞の領主であり、再統一された王国の王と親友でもありながら、ドゥリン一族の王や石の兜ソーリンの相手をする必要があり、ドゥリン七世はまだ現れていませんでした。 そこで私たちは自問しました。ミスリルを採掘して古代の王国を取り戻す可能性のために、ギムリがモリアで遠征隊の指揮を執るとしたら、トールキン教授のテーマやメッセージに反する形で、既知の事柄を変えたり影響を与えたりすることになるのか? どの程度しっくりくるのか?と。
Lord Of The Rings Return To Moria 3
ゲームのサバイバル要素に物語をどのように織り込みましたか?

カーン:プレイヤーにとってリアルタイムで起こる重要な物語の瞬間があり、その多くはかなり単刀直入です。 しかし、カザド=ドゥームの歴史は非常に長く、プレイヤーのドワーフたちは基本的に古代の遺跡を探索しています。

そのため、私たちは、プレイヤーがこういった物語の謎や場面に遭遇する際、そのキャラクターに合った自然な方法でありながら、楽しく興味深い手段になるよう心がけました。 たとえば、ガンダルフが「旅の仲間」と冒険する前に、すでにモリアを訪れたことがあることを表現したいと思いました。 ガンダルフがルーン文字を使ってドワーフと交流していたこともわかっています。結局のところ、ビルボの家の扉にガンダルフが刻んだルーン文字がすべての始まりですからね。そのため、ガンダルフがスラーインを探す旅で彼がどこに行ったかをルーン文字で表現することにしました。

重要なのは、この世界観の中にうまく収まる物語の瞬間が際立つような機会を見つけることでした。
 

Lîmin barak, lîmin tagaz! (「斧と剣を使う時がきた!」)


ギムリを演じたジョン・リス=デイヴィス本人と仕事をするのに 気おくれしたりはしませんでしたか? ギムリが話す台詞を書き、それを正統性のあるものにすることに関して、多少のプレッシャーがあったのではと思いますが。 彼はこのキャラクターやドワーフ全般について有意義な意見を持っていましたか?

カーン:私はジョン・リス=デイヴィスのファンなので、彼に私たちの脚本を見せる時にはもちろん緊張しました。 でも、彼が私たちのゲームでギムリの声を担当することが決まる前から、ギムリの台詞を書いている時にジョンの声が聞こえていなかったと言えば嘘になります。 彼は20年以上にわたってギムリを演じているため、私たちには知りえない方法でこのキャラクターを熟知しています。

ジョン・リス=デイヴィスの意見の多くは、セリフの言い回し、口調、感情の重みに関わるものでした。 もちろん、中にはアドリブもあり、とても楽しかったです! このプロジェクトで一緒に仕事をする機会を得たことは、この上ない喜びであり、名誉なことでした。

ここで言っておきたいのは、ギムリの台詞を可能な限り本物らしく書くことにさらなるプレッシャーがあったことは確かですが、私たちは作品のすべてにおいて、正統性に関して同様のプレッシャーと責任感を感じつつ取り組んだことです。
Lord Of The Rings Return To Moria 4
プレイヤーが最後にギムリを目にしてから時間が経過していることを表現するために、ゲームの世界観においてチームはどのように取り組みましたか?

ジョン=ポール・デュモン:冒頭のプロローグで、ゲームの舞台が第四紀に設定される土台を作っています。 年老いて白髪になったギムリを登場させたいと考えていたので、彼の外見には細心の注意を払いました。 プレイヤーはドゥリンの扉の周囲で工事が行われているのを見て、ドワーフたちが以前から侵入するために準備していたことを察するかもしれません。

ゲーム内でバルログの死についてドワーフが雑談していたり、プレイヤーがカザド=ドゥームの橋の状態を実際に目の当たりにするようにしたりと、ちょっとした趣向を凝らすことで、世界の状況を自然に感じられるように努めました。

架空の文化に新たな伝承を作り上げるのは、大変な作業のように感じられます。 音楽や衣装、ドワーフ語、さらには食べ物でさえ、まるで生き生きと息づいている文化に由来しているかのように見せるために、どんな取り組みを行いましたか?

カーン:ドワーフとその文化に注目するだけでなく、カザド=ドゥームや霧ふり山脈も、ある意味キャラクターとして捉えました。

そこから、衣服や音楽、言語、食べ物、さらには家具や彫像といったものまで、ほとんど考古学的かつ人類学的なアプローチで見ていきました。 私たちはドワーフ王国(と中つ国)の歴史の中で、その時々に何が起こっていたかを把握し、それを基に彼らの文化を紹介し、山の下の環境や自然が特定の空間をどのように取り戻しつつあるかを伝えるためのツールとして使うことで、カザド=ドゥームのさまざまなエリアを通して時間の経過を示すことを試みました。

例を挙げると、皆さんはカザド=ドゥームにエルフの影響があることを知って驚くかもしれません。しかし、ドワーフとエルフの関係が悪化する以前の第二紀には、両種族は密接に協力していました。ですから、その影響の可能性を探る機会として利用しました。

第四紀のドワーフを描くにあたり私たちが考慮したのは、戦争の後、中つ国に残っていたさまざまな種族の間には比較的平和で文化的な交流があり、ドワーフはそんな時代に生きているということでした。 そのため、ドワーフたちはどこから旅をしているのか、さまざまなことについてどのように語り合っているのか、何について歌い、何を食べているのかといったことを考えました。

チームでは中つ国の伝承について読書会を開いていたそうですね。 そのような活動についてコミュニティと共有できる、楽しかったことや興味深かったことは何かありますか?

カーン:ゲームの開発中、私たちは正式な読書会を少なくとも2回開き、『ホビットの冒険』『指輪物語』三部作を読みました。 読書会以外でも興味深いと思ったのは、一節や一部分を読み直すたびに、ゲームに取り入れることができるような新しい発見や異なる発見があったことです。

デュモン:読書会を通じて生まれた素晴らしいアイデアには、私たち自身も驚いていますよ。 たとえば、『Return to Moria』でドワーフたちが歌う歌は、オーディオディレクターが読んだ一節からインスピレーションを得たものです。

アイデアを思いつき、最初は「これはちょっと突拍子もないから使えないな」と感じたことでも、後にそのアイデアの意味をより深く理解し、実現できたことがたくさんありました。 さまざまな効能を得るためにドワーフが飲むのは、薬ではなく色々なビールであるという事実も、最初はくだらないと思われたアイデアのひとつでしたが、ゲームでは実に理にかなった要素になっています。


Khazâd dashkîn! (「ドワーフ達が帰ってきた!」)


クズドゥル語を発展させるために専門家と協力するようになって、日常生活でもクズドゥル語を使うようになりましたか? (私は使い始めようと思います!)

カーン:いくつかのフレーズがありますよ。 「Takfa Durin Khudrir」(ドゥリンが目覚めるまで!)や「Barkû yaggin」(斧が使って欲しいとうずいているぞ!) は思っていた以上に使いましたね。 また、クズドゥル語ではないですが、飼っている猫たちをがれき頭と呼んだことは何度かあります。 クズドゥル語をもっと生活に取り入れるべきですね。
Lord Of The Rings Return To Moria 5
差し支えなければお聞きしたいのですが、今までに『指輪物語』のファンフィクションを作ったことがありますか?もしあるなら、『指輪物語』の公式作品に携わることになった時にどんなリアクションをとったのか教えてください。

カーン:私が10代の時にピーター・ジャクソン監督の映画がリリースされましたが、もちろん『ロード・オブ・ザ・リング』のファンフィクションを書きましたよ。内容は絶対に公にするつもりはないですけどね。

一言でいえば、『指輪物語』の公式作品に携わる機会を得られたことは夢のようでした。 楽しく心の底から嬉しい出来事でした。しかし同時に、トールキン博士の伝承や著作に対する大きな責任も感じました。 振り返ると、人々がドワーフになることを楽しみ、仲間たちと山の下で走り回っているのを見ると、胸がいっぱいになります。

同じ『指輪物語』のファンの方々には、私たちがゲームの物語をどう発展させ、どのような関連性を持たせたかを楽しみ、満足していただければと思います。

最後に、ただの好奇心ですが、もし中つ国の世界にいるとしたら、誰になり、どこに住みたいですか?その理由も教えてください。

カーン:本当はドワーフになってカザド=ドゥームを取り戻すと言いたいところですが、正直に打ち明けると、一番なりたいのはホビットなんです。 ホビット庄に住んで、家族や友人、おいしい食べ物と一緒に、シンプルでありながら幸せな生活を楽しみたいです。 でも、ビルボのように、時々山を見に行きたくなる衝動にも駆られるかもしれません。

カザド=ドゥームの深淵から冒険心を胸に浮上すると、『Return to Moria』の背後にいる開発者たちが、創造力を掘り起こし、情熱を精錬して、筋金入りの『指輪物語』のファンをも満足させる冒険体験を作り上げたことがはっきりわかりました。

『The Lord of the Rings: Return to Moria』はEpic Games Storeで入手可能です!