『FINAL FANTASY XVI』がシリーズの長い歴史にPC版を刻み込む
2024.9.17
執筆:寄稿者:エイダン・モハー
そして今、『ファイナルファンタジーXVI』は、すべてのDLCと共にPC上へと登場し、新たなファンたちにクライヴ・ロズフィールドとヴァリスゼアの召喚獣を披露します。
今回、PC版『FFXVI』のリリースへの道のりを案内していただくため、ゲームのメインディレクターである髙井浩氏、そしてローカライゼーションディレクターのマイケル・クリストファー・コージ・フォックス氏に話を伺いました。 二人がPC版の制作にどのように貢献し、ゲームの舞台となる中世の設定が『ファイナルファンタジー』の過去と未来に関して何を物語るのか、そして、この長期にわたるシリーズの第16作が、シリーズを初めてプレイする人たちにとって意外なほど最適な導入作品となる理由について、洞察を語ってくださいました。
象徴的な召喚獣のシリーズ
「『ファイナルファンタジー』はファミコン時代から存在するRPGシリーズです」と髙井氏は話します。 多くのプレイヤーにとって、ほぼ40年続くゲームシリーズを16作目から初めてプレイするのは気が引けるかもしれませんが、髙井氏は新規プレイヤーたちに向けて心強い言葉をかけています。 「これまでの『ファイナルファンタジー』にはそれぞれ個性があり、独自の世界観、ストーリー、ゲームプレイが備わっています。つまり、シリーズを初めてプレイする人は誰でも、好きな作品から始められるんです」と髙井氏は説明します。 髙井氏の忠告は、 自分にとって一番面白そうな『ファイナルファンタジー』から入って、そこからプレイを始めることです。 そういった意味で、シリーズの過去に敬意を示しつつ、さらに未知の領域を広げる『ファイナルファンタジーXVI』は、好奇心旺盛な新たなプレイヤーにとって素晴らしい選択肢なのです。
第1作から『ファイナルファンタジー』では常に新しいデザイン空間が模索され、新作が出るたびに進化を遂げてきました。 これは、『ファイナルファンタジーIV』や『ファイナルファンタジーX』のように戦闘システムが刷新されることもあれば、『ファイナルファンタジーVII』のような気骨のあるサイバーパンク的なスタイルや、『ファイナルファンタジーVIII』のスタートレック風のユートピアといった、設定やストーリーを新たな方向に導く場合もあります。 『FFXVI』は前者に当てはまります。本作は、2016年リリースの 『ファイナルファンタジーXV』や2020年の『ファイナルファンタジー VII リメイク』以上に、馴染み深い設定はそのままにシリーズをハイペースなアクションベースの戦闘システムへと全面的に推し進めています。
「ゲームプレイに関しては、まずは開発者として何をやりたいかということを優先させました」と髙井氏は述べています。 「これは私たちにとって、直観的に感じられる体験を作り出すことでした」
『ファイナルファンタジーXVI』では、シリーズ第1作から定番であったパーティーベースの戦闘システムを脱却し、プレイヤーは主人公のクライヴ・ロズフィールドの操作だけを行うようになっています。 何度も強化されたブロードソードを装備し、他の『ファイナルファンタジー』シリーズ本編の作品を遥かに超えたスピード感で戦闘が展開し、カプコンの『Devil May Cry』シリーズを彷彿させます。面白いことに、Square Enixが『ファイナルファンタジーXVI』のコンバットディレクターである鈴木良太氏を見つけたのは、まさにこのシリーズでした。
「直観的」なアクションRPGを作ろうとする髙井氏のチームと共に、鈴木氏は自身の『Devil May Cry 5』と『ドラゴンズドグマ』での経験を生かして、スピード感、カスタマイズの柔軟性、そして最高水準の視覚効果を際立たせた、動きが速く緊迫感のある『ファイナルファンタジーXVI』のメインの戦闘システムのデザインに全力で取り組みました。 とはいえ、おそらく『FFXVI』の最大の魅力は、「召喚獣」同士の大規模なバトルかもしれません。
『ファイナルファンタジー』の長年にわたる「召喚」の伝統を引き継ぐ『FFXVI』では、この巨大な半神が中心に置かれ、プレイヤーは怪獣スタイルの戦闘において完全に操作することができます。これは、その壮大な設定とジャンルを定義する展開で有名なシリーズである、これまでの『ファイナルファンタジー』で目にした規模に匹敵します。 『ファイナルファンタジーIII』で登場して以来、英語版では「Espers」、「Eidolons」、「Aeons」など、様々な名で呼ばれてきた召喚可能な幻獣たちは、戦闘においては強力な効果をもたらしてくれますが、その効果は一時的なものでした。 召喚獣は、プレイヤーが大量のダメージを与える攻撃、または回復を必要とするときに呼び出す切り札的な存在です。 『FFXVI』では、召喚獣はプロットとゲームプレイの両方に組み込まれており、クライヴのストーリーや彼(つまりプレイヤー)が多くの悪党と戦う際に重要な役割を担っています。
「基本的に、自分は[『ファイナルファンタジーXVI』の]プロジェクト全体の進行を調整して管理する責任者」だと話す髙井氏から、彼のお気に入りの『ファイナルファンタジー』のタイトル(加えてSquare Enix入社後に初めて手がけた作品)が、ジョブに重点を置いた『ファイナルファンタジーV』であると聞いて、私はすぐさま彼のことを全面的に信頼しました。「この作品に一番大きな影響を与えられました」と髙井氏は述べています。 『ファイナルファンタジーXVI』と同様、第5作ではシリーズのトレードマークである戦闘システムに磨きをかけることに重点が置かれ、プレイヤーがキャラクターのスキルセットと能力をより自由に操作できるようになっています。 『FFV』の充実したジョブシステムと『ファイナルファンタジーXVI』での召喚獣の豊富なアビリティの間に類似点を見つけるのは簡単です。
これらの大規模な戦闘シーンは本当に素晴らしく、これまでの作品ではわずかに示唆されていただけだったアクションと視覚的な美しさが壮大なスケールで提供されています。 イフリートは炎、シヴァは氷、タイタンは大地といった風に、各召喚獣は異なる属性を持ち、その属性のアビリティはクライヴや彼の仲間、そして敵(ネタバレを避けるため名前は伏せます)が、そのそびえ立つ巨体の姿になった際の行動を決定するだけではありません。さらに、クライヴが通常の人間の姿をしている間も「召喚獣のアビリティ」を与えるため、これによりプレイヤーは好みのプレイスタイルに合わせた技のロードアウトを割り当てることができます。 たとえば、タイタンはクライヴに強力な防御の技を与える一方、ガルーダの爪を使った攻撃は素早く、敵を簡単にひるませ、シヴァはその場で敵を凍らせる能力を彼に与えます。 クライヴの召喚獣のアビリティが増えるにつれ、プレイヤーは好みの戦闘スタイルを作りあげるより多くの機会を解除します。つまり、プレイヤーは『ファイナルファンタジーV』の軸であったカスタマイズ性の原点に立ち返ることになります。
象徴的なストーリーテリング
『ファイナルファンタジー』シリーズは、その初期から『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『Wizardry』、『ウルティマ』などの西洋のRPGと螺旋状に絡み合うような関係性を持ち、相互に影響し合っていました。 『ファイナルファンタジーXVI』では、シリーズが中世の設定に回帰しており、初期のタイトルを彷彿させます。
『ファイナルファンタジーXVI』のヴァリスゼアの大地は、家庭用ゲーム機、PC、またはボードゲームに関係なく、RPGをプレイしてきた人にとっては馴染み深い土地だと感じるはずです。 その城や部隊、制限された技術レベル、そして食洗器よりも重い剣を振るうヒーローやヴィランたちが登場し、トールキンの疑似的な中世ファンタジーの世界をインスピレーション源として独自の世界を作り上げた、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、テリー・ブルックス、PCのRPGが登場し、愛され、覆されてきた1970年代以降のファンタジーのスタイルとなっています。 ここ最近のシリーズ作品の多くを特徴づけている未来派とファンタジーの組み合わせとは異なり、『FFXVI』は、『ファイナルファンタジー』の初期の頃を思い起こさせます。
「過剰に便利だと感じるような設定にはしたくありませんでした」と髙井氏。 「リアルに感じられる世界にしたかったんです」 髙井氏とそのチームは、過去のシングルプレイヤー向けシリーズ本編である『FFXIII』と『FFXV』で取り上げられた、サイエンスファンタジー寄りの世界からは離れ、その結果として生まれた物語を、世界中のユーザーが自然に感じられるような方法で書き直しました。 「これは、ゲームの多言語バージョンを準備する際に、ページに書かれた言葉以上のものを見据えて、より包括的な文化に適応する(翻訳とは対照的な)アプローチを採用することを意味しました」
開発の初期段階では、髙井氏とプロデューサーの吉田直樹氏、そしてクリエイティブディレクターの前廣和豊氏がテーブルを囲み、『ファイナルファンタジーXVI』のリアルで壮大な物語の基礎となる「柱」について議論しました。 最終的に彼らは3つのコンセプトを決定しました。中世の設定に戻すこと、召喚獣同士の戦闘、そしてリアルタイムのアクションです。 「次のステップは、それらを念頭に置いて、戦闘が自然に感じられる世界と、それらの動力となるエネルギー源を作り上げることでした 最終的に、脚本の仕上げは前廣さんに任せることにしました」と髙井氏は述べています。
前廣氏はイベントプランナーおよびシナリオライターとして、『ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争』や『ファイナルファンタジーXII』、『ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド』を含む、Square Enixの最も人気のあるストーリーの多くに取り組んできました。 これらのストーリーに共通するのは、薔薇戦争の政治的な背景やジョージ・R・R・マーティン著の『七王国の玉座』の政治的テーマを持つファンタジーが根底にある作品に、あからさまなファンタジー要素を避け、最終的に現実を破壊する半神の領域に物語が及んでいる点です。
ネタバレはしませんが、『FFXVI』も例外ではありません。 戦争のさなかにある帝国での陰謀のなかで、個人的な利害に焦点を当てた極めて気骨のある物語で幕を開け、60時間のプレイ時間を経て、この長い歴史を持つシリーズのどの作品にも匹敵する程の壮大な対立に展開していきます。 ゲーム開始時では、主人公のクライヴは若く、世間を知らない男性です。 何十年にもわたるストーリーを通して、プレイヤーはクライヴが奴隷にされて人生が崩壊し、その苦難によって最終的に、かつて支持していた帝国の圧制に立ち向かうための強さを築いていく、その過程を見守ります。
髙井氏と同僚のライターたちが中世の設定を選んだ理由の一つには、その世界から「利便性」の基準を取り除きたかったことがあります。 大都市ニューヨークやアメリカ中西部、15世紀のヨーロッパを組み合わせて形作られた世界である『ファイナルファンタジーXV』の主人公たちとは異なり、クライヴには携帯電話やオープンカーは用意されていません。
「『ファイナルファンタジーXVI』の主要なプロットポイントの一つは、奴隷である魔法使い「ベアラー」の苦境を中心に展開します」と髙井氏は説明します。 「社会の負担を軽くする大量の機械や技術が存在すれば、この苦境も軽減されてしまいます。 また、全体的に頼りにできる技術がないことで、私たちのキャラクターをより現実的な存在にしてくれるのではないかと考えました」
この新たな世界観にもかかわわらず、『ファイナルファンタジーXVI』はシリーズの歴史にもしっかり触れています。 ファンタジー要素の強いストーリーに立ち返ることで、制作陣はイースターエッグや過去作品への言及をゲームに盛り込むことができました。 トンベリ、ケアルラ、ポーション、フェニックスの尾など、シリーズでおなじみの基本要素はすべて揃っています。しかし、長年のファンにとっては馴染み深い、さらに深い部分にも触れられています。
「いくつかはおそらく偶然の産物ですが、多くは意図的に入れられたのだと思います」と髙井氏は話します。 「私がゲーム内で見つけてニヤニヤしたのは、クライヴが潜伏した飛空艇の名前がインビンシブルだったことです!」 長年にわたるシリーズのファンなら、これが『ファイナルファンタジーIX』の飛行艇の名前へのオマージュであると気づくはずです。
「ゲーム内のさりげない言及は『ファイナルファンタジー』の過去作にとどまらず、人気のゲームや映画、本や漫画、その他の流行のポップカルチャー要素にも触れるようにしました」とローカライゼーションディレクターのマイケル・クリストファー・コージ・フォックスは話します。 しかしながら、口が重い彼は秘密を漏らすことはしません。ファンには様々なイースターエッグを自分自身の手で探し出して欲しいのです。 「ここで秘密を暴露したりはしませんよ!」
しかし、明らかにしたこともあります。 実際、『FFXVI』で最も驚くべきイースターエッグはおそらく、ビッグスとウェッジへの言及が見つからないことかもしれません。 「ぜひ探してみてください。でも、見つからないと確信しています」とフォックス氏。 だからといって、いたずら好きの環境アーティストがこっそりと何かを挿入していないということにはなりませんよ。ただ、私が聞いていないだけです。 でも、もし見つけたら私に知らせてください!」
PC版への道のり
では、PC版リリースには何を期待できるのでしょうか? 髙井氏によると、PlayStation 5版に可能な限り匹敵する体験とのことです。加えて、240fpsへの最大フレームレートの増大や、NVIDIA DLSS 3、AMD FSR 3、Intel XeSS 1.3のアップスケール技術との互換性といった、PC特有の機能が追加の利点としてあります。 これは何を意味するのでしょうか? 最もグラフィック面で負荷のかかるPlayStation5のゲームの一つが、オリジナルと同等またはそれ以上の品質を約束する新たな機能とともに、PC版へと移植されます。
PC版『ファイナルファンタジーXVI』はオリジナルのPlayStation5版と同じチームによって制作されました。これは、サードパーティの開発スタジオによってゲームが家庭用ゲーム機からPCへ移植される際には実現できないことが多い、ゲームに対する経験レベルを開発者が持っていることを意味します。 社内でこのプロセスを処理したことにより、物事のペースが落ちたと髙井氏は言います。その理由は、PlayStation5版がリリースされるまで開発を始めることができず、同時に、DLCにも取り組んでいたからです。
「様々なPC環境のユーザーに向けてPlayStation 5に匹敵するゲームプレイ体験を再現する、という私たちの究極の目標には、独自の難題をもたらしました」と髙井氏は語ります。 「最終的には、数々の詳細な最適化を必要としましたが、目的を達成することができたと確信しています」
事実、髙井氏は次のように明かしています。「PC版のための最適化の一部は、実際にPlayStation 5版向けの発売後の小規模なパッチに反映されたんですよ!」
PC版『ファイナルファンタジーXVI』では、コントローラーだけでなく、マウスとキーボードによる操作も完全にサポートされています。これは、家庭用ゲーム機でプレイするゲーマーにとっては不可解な設定かもしれませんが、髙井氏は、同様のゲームからヒントを得て、うまく機能し、各プレイヤーの好みに合わせてカスタマイズできる操作スキームを開発したのだと指摘しています。 「操作に関しては、昨今のPCゲームで常識と考えられる操作からあまりかけ離れたくなかったんです」と髙井氏は説明します。 基礎が出来上がると、髙井氏のチームは「開発チームにいる筋金入りのPCゲーマー」を招待し、社内テストに協力させることで、デフォルト設定を自然で直感的に感じられるものに微調整しました。 「そうは言っても、プレイヤーはさまざまですので、キーバインドは完全にカスタマイズ可能にしています」
現代の家庭用ゲーム機の最大の利点のひとつは、超高速のソリッドステートドライブ(SSD)です。これにより、『ファイナルファンタジーXVI』のような複雑でグラフィックを多用するゲームでも、読み込み時間が驚くほど短くなります。 これは、髙井氏のチームにとって難題となりました。PCプレイヤー全員がSSDを搭載したPCを持っているわけではないからです。 「ゲームにおいて絶対に避けたいことは、壮大な戦闘の真っただ中で読み込みが開始されることです。そのため、ゲームのこの分野の最適化に多くの時間と労力をかけました」と髙井氏。 「私たちはできる限り多くの種類のハードウェアビルドでゲームをプレイできるようにすることを目指しました。そして、この目標を達成するためにリリース直前まで微調整を続けました」
ゲームのディレクターに直接、極めて具体的な不満について尋ねる機会は滅多にないので、私はこの機会を利用して、PC版『ファイナルファンタジーXVI』のゲーム終了後に空を晴れにするオプションが含まれるかどうかを髙井氏に尋ねてみました (コンソール版のファンなら、私が何を指しているかは分かるはずです)。 「残念ながら、含まれていません」と髙井氏。 ただし、「The Rising Tide《海の慟哭》」DLCを個別で、または「コンプリートエディション」を通じて購入したプレイヤーは、澄み切った青空を特徴とする新しいゲーム後の地域にアクセスできるようになると説明します。 「それで十分であればいいのですが」
PCゲームの大きなセールスポイントのひとつが、ファン層によるMODのサポートです。 『Skyrim』や『Elden Ring』といったゲームの場合、完全な変換MODやシームレスなマルチプレイヤーなど、あらゆるMODを導入できるようにすることで、大改革をもたらしました。 髙井氏は、チームメンバーの大半がすでに他のプロジェクトに移っているため、将来的に公式のMODをサポートする予定はないと断言しました。しかし、ファンコミュニティが独自のMODを作成してゲームを微調整することは支持するとのことです。 「ご自身で好きなようにお楽しみください。 もちろん、常識の範囲内でですよ!」と髙井氏。
これはただの憶測に過ぎませんが、もしかすると、ファンがヴァリスゼアの空を救えるかもしれません。
PC版『ファイナルファンタジー』のルーツ
『ファイナルファンタジー』は家庭用ゲーム機に焦点を当てたシリーズとしてみなされることが多いですが、実際には1980年代のPC版人気RPG作品、特にリチャード・ギャリオット氏の『ウルティマ』やアンドリュー・C・グリーンバーグ氏とロバート・ウッドヘッド氏の『Wizardry』にそのルーツがあります。 『ファイナルファンタジー』の生みの親である坂口博信氏は、これらの西洋の大ヒット作や『ダンジョンズ&ドラゴンズ』からインスピレーションを得て、任天堂が新たに発売したファミコン(世界的にはNintendo Entertainment Systemとして有名)を使って自宅でプレイするのに適したゲームを開発することを目指しました。 複雑で拡張性の高いPCのRPGを家庭用ゲーム機に適した形式に凝縮することで、坂口氏と『ドラゴンクエスト』を生み出した堀井雄二氏は、新たなRPGのサブジャンルを切り開きました。これは日本であっという間に人気を博し、約10年後には『ファイナルファンタジーVII』が欧米で爆発的な成功を収めました。
初期の『ファイナルファンタジー』作品の多くは、最初のリリース後も長い間、家庭用ゲーム機専用のままで、『ファイナルファンタジーVII』はSonyの元祖PlayStationで大ヒットしました。この成功をきっかけに、スクウェア社のコスタ・メサのオフィスでPC移植版が開発され、『トゥームレイダー』シリーズで好調だったEidos Interactiveによって欧米でリリースされました。 完璧ではないものの、『ファイナルファンタジーVII』のPC移植により、シリーズは新たなファン層を獲得し、現在も存在する活気あるMODコミュニティが生まれ、27年前にリリースされたゲームに目覚ましい機能強化をもたらしました。
『ファイナルファンタジーVII』以降、本シリーズのPCにおけるサポートは断続的だったものの、Square Enixは2000年に実施されたスクエアミレニアムのイベントで『ファイナルファンタジー』、『ファイナルファンタジーX』、『ファイナルファンタジーXI』のリリースを発表し、ファンを喜ばせました。シリーズ本編の3作を3年連続でリリースするという発表よりもさらに衝撃だったのは、このシリーズがPCに劇的な復活を遂げ、『ファイナルファンタジーXI』が完全オンラインMMORPGになったことです。 PCとPlayStation 2でのリリースが予定されていたこの作品は、シリーズ初のマルチプラットフォームでのリリースとなりました。 『ファイナルファンタジーXI』は、シリーズが続けてきたシングルプレイヤー形式から逸脱したため賛否両論があったものの、PlayStation 2とPCの両方で大成功を収めました。その結果、クロスプラットフォームの強力なゲームとしてシリーズの新時代を切り開き、少数ながらも熱心なファンに支えられ、今日も続いています。
シリーズが家庭用ゲーム機で最初に発売されてからほぼ40年が経過した現在では、『ファイナルファンタジー』のメインタイトルの大半がPCでプレイ可能です(『ファイナルファンタジーXIII』を除く)。本シリーズは、『ファイナルファンタジー』の初期6作品が新しいピクセルアートグラフィックと現代的なQoL向上でアップデートされた『ファイナルファンタジー ピクセルリマスター』シリーズをはじめとするレトロなリメイクを通じて、新しいファンを魅了し続けています。 しかし、本シリーズのPCにおける大きな躍進は、『FFVII』の移植でも、ファミコンやスーパーファミコンのクラシックゲームのリメイクでも、初めて成功したMMORPGでもありません。 転機が訪れたのは、Square Enixが二度目のマルチプレイヤーゲームに挑戦して失敗に終わった後、2013年に『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』としてゲームを刷新したときでした。
クロスオーバーの魅力
2024年1月現在、『ファイナルファンタジーXIV オンライン』とその拡張パッケージ(2024年の「黄金のレガシー」を含む)は、登録プレイヤー数が3,000万人を超えており、シリーズで最も人気があり、広くプレイされている作品のひとつに数えられます。このゲームには、『ファイナルファンタジーXVI』とのクロスオーバーイベント「炎影の旅路」もあり、『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』のプレイヤーは、クライヴの鎧や、『ファイナルファンタジーXVI』の魅力的な仲間であるトルガルにインスパイアされたマウントやミニオンを利用できます。
しかし、最初の滑り出しはそううまくいきませんでした。
2010年に『ファイナルファンタジーXIV』が発売された際、その初期バージョンは現在のものとは大きく異なり、ゲームプレイとパフォーマンスが標準以下だったため、批評家とプレイヤーの両方から酷評されました。 これはシリーズ史上前例のない失敗でしたが、これを業界を牽引してきた『ファイナルファンタジー』の名声に匹敵する成功に変えようと、Square Enixは強く決意していました。
ほぼ同時期に、それほど知られてはいなかった開発者である吉田直樹氏が髙井氏、アーティストの皆川裕史氏に加わり、Square Enix内に野良犬と呼ばれる非公式なグループが生まれました。 当初は、HDグラフィックへの移行に備えて、西洋の開発者から効果的に学ぶ方法を見つけることに重点が置かれました。 しかし、Square Enixに入社し、同社のもうひとつの大型MMORPG『ドラゴンクエストX』の開発に携わった吉田氏は、そのオンラインRPGに関する専門知識を買われ、野良犬として『ファイナルファンタジーXIV』の将来についての議論に参加することとなったのです。
数々の会議の結果、吉田氏はプロデューサー兼ディレクターとして正式に『FFXIV』開発チームに参加し、このMMORPGの全面的な見直しを開始しました。
吉田氏は2012年のインタビューでこう話しています。「特定のクオリティが期待されていたのに、私たちはそれを提供できませんでした。 その時点でプロジェクトを放棄することは、長期的に見てSquare Enixに打撃を与えることになると考えました。 私たちは最初からやり直し、ファンに作品の欠点について謝罪するとともに、プロジェクトについて真摯に考えていることを知っていただくことで、プレイヤーとの信頼関係を取り戻そうと決意しました」
吉田氏は、間違いなくプレイヤーの信頼を取り戻すことに成功しました。 2013年8月のリリースから10年が経過した現在でも、吉田氏の『ファイナルファンタジーXIV オンライン』は、その奥深いストーリー、プレイのしやすさ、そして永続的な魅力で高く評価され、史上最も人気が高く成功したMMORPGのひとつであり続けています。
『ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア』とその拡張パッケージの成功により、吉田氏はSquare Enixにおける傑出した地位を固め、2016年にトラブルに見舞われ大幅に延期された『FINAL FANTASY XV』の発売後、シリーズ本編の次作の開発を率いるよう任命されました。 吉田氏は、野良犬の他にも、作家の前廣和豊氏、作曲家の祖堅正慶氏、アーティストの髙橋和哉氏、前述の戦闘ディレクター、鈴木良太氏と共に、『ファイナルファンタジー』の未来を形作るため注力しました。
『FFXVI』のマルチプレイヤー要素としては、スコアベースのアーケードモード意外にありませんが、髙井氏は『ファイナルファンタジーXIV』のファンは『ファイナルファンタジーXVI』のボス戦に馴染みのある要素があることに気づき、驚くかもしれないと考えています。 「これらの類似点は意図的なものではありませんが、私たちのチームメンバーの多くが以前に『FFXIV』に携わっていたり、光の戦士であったりすることを考えると、おそらく避けられないことなんでしょうね! 『FFXIV』のプレイヤーの皆さんには、ぜひ『FFXVI』をプレイして、これらのイースターエッグをいくつ発見できるか試していただきたいです」と髙井氏は話しています。
髙井氏によると、吉田氏が『ファイナルファンタジーXIV』と『FFXVI』の責任者ではあるものの、両プロジェクトに取り組んでいるチームはそれぞれ独立して活動しているとのことです。 「そのため、それぞれの作品に独自の「色」が生まれるんです」と髙井氏は説明します。 「プロジェクトに関してチーム間でのコミュニケーションはあまり取られていないため、何を真似し、何を避けるかについての考慮はほとんどありません」
「振り返ってみると、それぞれのゲームがいかに独特であるかは驚くべきことです。 これは、坂口さんや北瀬さんのようなシリーズの初代クリエイターたちが、私たちの思い描いたとおりに『ファイナルファンタジー』を作ることができると教えてくれたからだと思います」
ファイナル(最後の?)ファンタジー
『ファイナルファンタジーXVI』のストーリーを語るために、髙井氏と吉田氏のチームは細部までこだわった没入感のある世界を作り上げました。 ゲームのメインストーリーでヴァリスゼアのことはいろいろと学べますが、ゲーム全体にもさまざまな詳細が隠されています。 「ヴァリスゼアのストーリーを深く探求したいファンは、アクティブタイムロア、ハルポクラテスの備忘録、ヴィヴィアンレポートなど、ゲームに追加されたさまざまなシステムをチェックしてみてください」と髙井氏は話しています。
これらのシステムは、使いやすいUI要素を通じてヴァリスゼアの複雑な背景と歴史をゲームに織り込むことで、『ファイナルファンタジーXII』と同様のアプローチを改良することを目的としています。 たとえば、プレイヤーはカットシーン中に「アクティブタイムロア」を開き、そのシーンで言及されているキャラクター、国家、またはストーリーの詳細を百科事典形式で表示できます。 『FFXVI』のように長編でストーリーが豊富なゲームでは、この機能は、その膨大な登場人物と複雑な構想についていくのに苦労するかもしれないプレイヤーにとって天の恵みです。実際、この記事を書いているベテランの『ファイナルファンタジー』ファンもその一人です。
ヴァリスゼアの歴史を深く探求することは、その過去に深く根ざしながら、『ファイナルファンタジー』シリーズを新たな領域へと進めていくことを目指すゲームにとって最適なアプローチだと感じられます。 『ファイナルファンタジー』の第1作で、主人公の人生における数十年の物語を描いたシリーズが、中年期を迎えた今、数十年にわたる自らの歴史と変化や成長を結びつけることに最も関心を寄せているのも、おそらく偶然ではないのかもしれません。
それでは、『ファイナルファンタジーXVI』の将来はどうなるのでしょうか?そして、それはシリーズ全体の方向性について何を明らかにするのでしょうか? 髙井氏は、基本ゲームと両方のDLCエピソードを収録した『ファイナルファンタジーXVI コンプリートエディション』がストーリー全体を表現していると述べています。 髙井氏はこう続けます。「ファンからは追加のDLCを求める要望を多くいただいていますが、現時点ではゲームの世界をさらに拡大する予定はありません。 だからと言って、新コンテンツがまったくないことを意味するわけでもありません」
では結末はどうでしょうか? 多くのファンは、DLCによってゲームのもったいぶった曖昧な結末が明らかになるのではないかと推測していますが、期待しすぎないほうがいいかもしれません。 「結末に関しては── 曖昧なままにしておくことで私は満足しています。つまり、実際に何が起きるのかについての公式な発表は一切ありませんよ!」とのことでした。
クライヴのストーリーは、ここで終わりです。「終わり」が何を意味するのかはわかりません。とはいえ、『ファイナルファンタジー』には輝かしい未来があります。 新しい『ファイナルファンタジー』が登場するたびに、独自の方向性を打ち出しているため、髙井氏は『ファイナルファンタジーXVI』の成功がシリーズの将来にどのような影響を与えるかについては言及しませんでした。 「成人向けのレーティングやリアルタイムアクションバトルといった、新しいアプローチを模索した私たちの決断が、次作の開発チームにリスクを負って自らのビジョンを追求する勇気を与えるなら、私にとっても嬉しいことですよ」と髙井氏は述べています。
『ファイナルファンタジー』の次作に何が起こるのであれ、『ファイナルファンタジーXVI』がPCでリリースされることで、このシリーズの人気が、最初に世界的なスターダムにのし上げた家庭用ゲーム機の枠をはるかに超えたものであることが再認識されたことは間違いありません。