『Frostpunk 2』独占インタビュー:凍てつく世界に足跡を残せ
氷河期の襲来から30年、フロストランドの暮らしは決して楽なものではありませんでしたが、テクノロジーの進歩により、なんとか生活できるようになりました。 背後にある巨大なエンジンタワーで暖められたクレーターの中で暮らす市民たちは、吹雪で一掃された世界を目の当たりにしながら、その環境に順応していったのです。
2018年にリリースされた最初の作品『Frostpunk』で、プレイヤーは世界を襲う大寒波から逃れる難民の小さな集落を率いました。 本作品は、建物の配置や資源の調達を指揮するだけでなく、貯蔵庫の備蓄を怠ると致命的な結末を迎えてしまうサバイバル都市建設ゲームでした。 食料が不足すれば人々は飢え、石炭がなくなれば街の中心にあるエンジンタワーが停止し、市民はベッドの中で凍りつくことになります。
続編では、良く見ると、一作目の『Frostpunk』でプレイヤーが率いた時と同じような都市に見覚えがあるはずです。 ビクトリア様式の建物が熱を放つ発電機を取り囲むように建ち並んでいますが、それらは過ぎ去った時代の遺物です。 新しい地区の通りを埋め尽くしている建物は、木造ではなく鉄骨と石造りで、窓がないのがわかるでしょう。雪を眺めるくらいなら寒さに耐える方が良いということを、人々は知っているのです。
街並みそのものが、市民の生活がどれほど変化したかを物語っています。 外に向かって拡大し続けるこの都市は、もはや旧市街の厳格な同心円状の街並みに従ったものではありません。資源を大量に消費するこの大都市は、中央のエンジンタワー1つに依存していないのです。 過酷な環境にもかかわらず、街の通りを縫うように走る黄金の軌跡を見れば、人口が増え続けていることがわかります。それぞれの軌跡は、家から仕事場、仕事場から家へ、そしてまた仕事場へ、という絶え間ないサイクルで移動する数多くの市民の絶え間ない動きなのです。 この黄金に輝く輪は『Frostpunk 2』の根底にあるアイデア、つまり、自らの尾を食らう蛇、ウロボロスを象徴しています。 生と死、繁栄と衰退、成長と崩壊という終わりなきサイクル。 前作では衰退していく都市を率いましたが、続編では発展し続ける大都市が直面するあらゆる危機を乗り越えていかなければなりません。
開発者の11 bit studiosが2024年7月25日(米国時間)にリリースを予定しており、4月にはベータ版の公開が予定されている『Frostpunk 2』は、新たな試練に立ち向かうフロストランドの続編を描いた物語です。 生き残るという究極の目的から解き放たれた市民たちは、自分たちの都市を取り囲む世界を今や「死」ではなく「チャンス」として捉えるようになりました。 「『我々人類は、またも生き残った』(と人々は考えているのです)」と『Frostpunk 2』の共同ディレクター兼アートディレクターであるウカシュ・ユーズチェック氏は言います。 『この凍てついた世界なんてク○くらえだ。この真っ白な紙に指紋をつけて、旗を立て、ここは自分たちのものだ』ってね。
続編の種
「『Frostpunk』は極限状態に追い込まれた社会、迫り来る終末世界(での生き残り)を描いたゲームでした」と語るのは、『Frostpunk 2』のもう1人の共同ディレクターであり、同ゲームのデザインディレクターでもあるヤクブ・ストカルスキー氏。
確実な死を前にして、ニューロンドンの人々は絶対的な権力をプレイヤー与えました。 ストカルスキー氏は、それを「都合の良い権威主義」と呼びます。 都市のキャプテンとして、プレイヤーは建設する施設やテクノロジーの研究、さらには制定する法律の内容まで決定してきました。 児童労働を強制し、鉱山に多くの労働者を供給する一方で、人々の希望を犠牲にすることもできたでしょう。 都市の城壁に到着した難民を歓迎することも、あるいは限られた食料と利用可能な住宅がさらに圧迫されることを予測して、彼らを追い返すこともできました。
「『Frostpunk 2』はその次のステップです」と語るのは、ストカルスキー氏。「『やらなければ死んでしまう』という団結力が失われ、誰もが独自の方向性を持ち始めた今、社会はどのように再構築されるでしょうか?」
ユーズチェック氏とストカルスキー氏は、歴史にインスピレーションを求め、氷河期を世界大戦に似た出来事と考えました。 「それは彼らにとって、さまざまな意味でこの世の終わりでした」とストカルスキー氏は語ります。 「第一次世界大戦の塹壕から生還した退役軍人は、彼らがくぐり抜けた経験ゆえに異質な存在でした。 そうした経験によって形成された人々なのです」
世界観を変えられた彼らが帰還したとき、彼らを取り巻く世界も一変したのです。 「当時の建築様式や社会思想は未来派、あの洗練された空気力学的なラインを特徴とする流線型のモダンスタイルでした」とユーズチェック氏は言います。 「未来に思いをはせるという誇りが、人類にはあったのです」
しかし、第一次世界大戦ですべての戦争が終結したわけではありませんでした。 1930年代になると、世界の国々は再び互いに敵対するようになりました。 「野心が芽生え、前進するチャンスに恵まれ、人々が構想を練り始めると必ず、欲求や欲望といった内なる悪魔が呼び起こされます」と語るのはユーズチェック氏。 「窓の外を眺めていて、そんなメッセージを感じました。 平和であればあるほど戦争が始まり、ある種のバランスが保たれていればいるほど、私たちは森林を伐採し、環境を搾取します。 人類の革新と創造の輝きは、同時に破壊という重要な側面を持ち合わせているのです」
「結局のところ、私たちの最大の敵は自然ではなく、人間の本性なのです」とストカルスキー氏。
「それが最初のステップでした」と、ユーズチェック氏は言います。つまり、コンセプトの種を考え出す時に、『Frostpunk 2』で言いたかったことなのです。 2つ目は「どうすれば面白いメカニズムを使って、伝えたいメッセージを伝えることができるか?ということでした。 メカニズムはゲームの雰囲気にマッチしていなければなりません。 アートがデザインと融合すれば、すべてが完璧に調和するはずです。 そして、やはりゲームですからね? 楽しくなければいけません」
痕跡を残す
『Frostpunk 2』における最も大きな変化のひとつは、そのスケールの大きさです。 一作目は事実上、大嵐へのカウントダウンであり、一瞬たりとも油断できない、一片の木材さえも貴重な世界が舞台でした。 11 bit studiosが、この新作でプレイヤーに挑んでほしい問題は、さらに本質的なものです。「私たちを突き動かす大いなる原動力とは何でしょう?」とストカルスキー氏は語ります。 「テントを建てるために、どうやって10本の木材を集めたのか?ということではありません」
「このような社会の大規模な変化を適切に表現するためには」と同氏は続けます。「数日から数週間、数ヶ月、さらには数年へと経過していかなければなりません。 時間軸を拡張する場合、成長や発展を表現するために物理的なスケールも拡大する必要があります。 プレイヤーにとって、建物を1つずつ建設するのはもはや意味がないのです。そこで、住宅、資源採掘、物流といった地区全体の構築を指示し、区域を指定すると、人々がその区域を建物で埋めていきます。
『Frostpunk 2』の各地区は孤島ではありません。 周囲の環境が影響を及ぼします。住宅地を工業地区で囲むと、住民は工場が引き起こす劣悪な環境に対して不満を持つようになり、住民の間で反感が生じるでしょう。 都市発展のニーズと、そこに暮らす人々のニーズの両方をバランスよく満たさなければなりません。
とはいえ、バランスを維持するのが最も難しいのは、民意です。 「彼らは30年間生き延びてきたのですからね」と、ストカルスキー氏は言います。 「決してバラ色の生活を送っていたわけではありませんが、生活し、子供を育て、さらに多くのことを望むようになりました。そして人生に求めたことのひとつが、都市のあり方について発言権を持つことだったのです」
都市のために新たな法律を決議する代表者による政府である、評議会を人々は設立しました。 プレイヤーはスチュワードとして、今でも都市の構想について指揮をとることができますが、必要な票を確保しなければそれを実現することはできません。
分断した仲間
ストカルスキー氏は、『Frostpunk 2』のキャンペーンにおける主な目的を明言せず、「(都市が) 資源不足と拡大の必要性に直面しているときに、プレイヤーはリーダーを引き継ぐことになります」とだけ述べています。 しかし、どのように拡大するかは、市民全員が同じ考えを持っているわけではないため、あらかじめ決まっているものではありません。
氷河期はすべての人々に影響を与えましたが、誰もが同じ思いを抱いたわけではないのです。 あれから数十年、住民の中にはいくつもの派閥が生まれ、それぞれが異なる理念のもとに結束していきました。 「今回のシナリオでは、どのように都市を拡大していくかが結果を左右します」と、ストカルスキー氏は語ります。「どうやって街を形成するか、その延長線として社会がどう形づくられ、そこから生じる対立をいかに管理するかということです」
その中のひとつである採食者というグループは、「変化に適応し続けること、壊れそうなものには近づかないこと」が不可欠であることを学んだのですと同氏は説明します。 彼らが頼りにしているのは、機械ではなく人間の肉体そのものです。 もうひとつの派閥であるエンジニアは、それとは正反対の考え方を持ちました。 彼らは、フロストランドが存続できたのはテクノロジーのおかげだと信じているのです。 都市が再び拡大するにつれ、これらの派閥はお互いの理念に基づいて、その発展の舵取りを競い合います。
チームが『Frostpunk 2』の派閥を生み出したとき、「価値観の軸」というアイデアにたどり着いたのだとストカルスキー氏は明かします。 「私たちは、ルネサンス時代にまでさかのぼり、人々が考えを軸にどのように組織化されるかについて、さまざまな哲学的、社会学的、政治的、そして論理的な思考過程を徹底的に調査しました。 そして、特定の世界観を表現するため、それぞれの極端な要素を2つ持つ、3つの軸を選んだのです」 採食者とエンジニアは、テクノロジー軸の対極に位置します。
つまり、対立する派閥が都市にとって重要な決断を下す際、意見が一致することはほとんどないということを意味するのです。 例えば、キャンペーンで直面する選択のひとつに、都市の食料増産と人口増加をどう支えるかがあります。 作物には肥料が必要ですが、その選択肢は人間の排泄物または化学肥料の2つです。 採食者は、排泄物が不足することは決してないと考え、その必要性を訴えます。 一方、エンジニアは化学肥料のほうが衛生的だと主張するのです。 「どちらが良くて、どちらが悪いという答えは本当にありません。 自分がどういう人間で、世界をどう見ているかによるのです」とストカルスキー氏。
評議会での投票によって都市の進む方向は決まりますが、その結果に影響を与えることはできます。
プレイヤーはスチュワードとして、評議会の会議で採決の対象となる政策を決めることができます。これにより、都市の形成に大きな影響を与えることを可能にします。 評議会の会議は定期的に開催され、そのたびに政策を提出しなければなりませんが、多くの場合、いくつかの政策が用意されており、その中から選択します。 政策が決定される前には、異なる派閥がどのように投票する意向であるかを確認することが可能です。 例えば、エンジニアに賛成しているけれど可決に必要な票数が足りない場合、その会議で別の政策を評議会に提出することで、事実上投票を遅らせ、他のメンバーを説得して味方に加える時間を作ることができます。
派閥の意向を変える方法はたくさんありますが、そのほとんどは支持に対する見返りを提供することです。 例えば採食者は、食料地区の増設を約束する見返りに、化学肥料を支持するよう説得できるかもしれません。 もし約束を守れなければ、採食者の怒りを買い、都市の中で反発を生むことになるでしょう。 「緊張が高まりすぎると、リーダーの地位を追われる可能性があります」とストカルスキー氏は言います。
リスクはありますが、貴重な交渉材料はスチュワードとしての権力そのものです。 次の議会で採決される政策を彼らに選択させることで、派閥での地位を高め、投票で支持を得ることができます。 しかし、ストカルスキー氏が言うように「そうなれば、相手が提案するものすべてに囚われてしまいます。 そして、その提案が気に入らなければ、相手と交渉しなければなりません。 ですから、すぐにややこしくなるのです」
評議会自体にもバランスが必要です。 「(政策)の方向性に全力を注げば、誰もがそれを見て賛同し、勢力を拡大していくでしょう」とストカルスキー氏。 それぞれの派閥は、自分達が完璧な世界のビジョンを持っていると信じていますが、ユーズチェック氏が言うように「ある人にとってのユートピアを築くアイデアは、それは必ず他の誰かにとってのディストピアとなる」のです。
例えばエンジニアには、個人の権力と選択は国家に委ねられるべきだと考えるテクノクラートと呼ばれる過激派の下部組織があります。 彼らが掲げる政策のひとつは、子どもたちを親から引き離す義務教育です。 もしこれを阻止しようとすれば、この集団は街頭で抗議し、街中に混乱を引き起こすでしょう。 「このゲームでは、こうした野心やより良い未来への意欲が、放っておくと悲劇や没落につながりかねないことを示しています」とストカルスキー氏は言います。
「『Frostpunk 2』をプレイすると、それぞれの思惑を持った人々の集団を突き動かしながら、(そのような環境で)活動することがいかに困難であるかを実感できるでしょう。」と11 bit studiosのCEOである、プシェミスワフ・マーシャル氏は語ります。 「現在の世界を見ればわかるように、さまざまなグループや派閥を捉えるのは難しいことです。」
プレイヤーは、『Frostpunk 2』で街を直接コントロールできないことにストレスを感じるかもしれません。しかし、ストカルスキー氏はそれを受け入れています。 「実際にはどんなゲームにも言えることですが、特にストラテジーゲームは、その中核にパワーファンタジーがあります。『気分がよくなりたいからこのゲームをプレイしたい。思い通りになると気分がいい』といった具合です」 ゲームの中核を成す投票システムにより、「(プレイヤーは)未来に対するさまざまな意見やアイデアと戦わなくてはならない」と彼は言います。
そして、現実の世界と同じく、自由に使える非民主的なツールはほかにもあります。つまり、困難な状況に遭遇したときには、「自分の良心に少し譲歩を求めたくなる誘惑」があるとストカルスキー氏は言います。 第一作目の『Frostpunk』では、民意を無視できる権力を持ち込み、プロパガンダタワーや、あらゆる反対派を撲滅する高圧的な警備員で街をあふれさせることで、キャプテンとしての仕事をやりやすくすることができました。 ストカルスキー氏は詳しく語りませんでしたが、『Frostpunk 2』には「より直接コントロールしたいプレイヤーに向けて、(評議会を利用した)創造的な方法が用意されている」とのことでした。
規模感
第一作目では、人口は数百人で、メインキャンペーンの長さは数か月でした。 しかし今作では、街には数千人もの人々が住み、キャンペーンは何年にもわたって続きます。 こうした変更には、『Frostpunk』を特別なものにしていたもの、つまりシステム主導の世界で繰り広げられる人間的な物語を、11 bitが失ってしまうリスクが伴います。
「少なくとも3作品前から私たちが抱えてきた、デザイン上の課題なのです」と、ストカルスキー氏は笑いながら言います。 「『This War of Mine』までさかのぼります。 画面上の小さな人々に、(プレイヤーが)どう共感するのか? それから『Frostpunk』を作り始めて、人々は今やこんなサイズになってしまいました」と、ストカルスキー氏は指でその小ささを示します。「さて、(プレイヤーは)どう共感するのでしょう? さらに『Frostpunk 2』では、人々の大きさはわずか数ピクセル。(プレイヤーは)彼らにどう共感するのでしょうか?」
その解決策のひとつは、チームが「ゴースト」と呼んでいるものになります。 トレーラーやスクリーンショットで確認できますが、キャラクターのポートレートが中心に表示された三角形です。
『Frostpunk』では、キャプテンであるプレイヤーに市民が近づき、依頼があったり、街で起きている出来事を伝えてくれたりしましたが、こうした生活の一コマは「話し手の頭の中から純粋に出てきたもの」であると、ユーズチェック氏は言います。 「私たちは、まるで心が読めるかのように、プレイヤーを人々の視点に近づけようとしました」
「本作で最もインパクトが強く感情的な瞬間は、時間をかけて(これらの人々の)心を読み、考える時です」と、ストカルスキー氏は語ります。 「大きな感動という見返りがあるからです」
「つまり、カメラは遠ざかるものの、特定の人物に焦点が当てられるのです」とユーズチェック氏が説明します。 「『Frostpunk』とは異なる経験になるでしょう。 『Frostpunk 2』では、人々が拍手をしたり、雪の中を必死に歩いたりする姿を見ることはできません。というのも、本作はそういうゲームではなく、社会、そして(それを構成する)グループについてのゲームだからです」
チームは、より壮大なスケールと親密な視点といったそのプラットフォームを駆使して、物議を醸すいくつかのテーマを探求する予定です。 「例えば、優生学のような最も忌まわしい考えでさえも、それが生まれる過程で正当化される様子を見るのは興味深いことです」とストカルスキー氏は言います。 「これらのトピックの多くを見直し、さまざまな(情報源の)トピックを目にしたことで、確信を持って語られるものに対しては謙虚であり続けたいという衝動が私に残りました。 私たちはそのような選択が、目の前のジレンマに対して明白であるものを超え、それを覆すものになるように挑んだのです。」
エンジントラブル
画面上には現れないかもしれませんが、『Frostpunk 2』は開発中に大きな困難に直面しました。 「私たちのチームでは、2020年を3つのエンジンの年と呼んでいます」と語るのは、テクニカルディレクターのシモン・ヤブロンスキー氏です。
スタジオが設立された2010年以来、11 bit studiosはすべてのゲームに対して自社製の同じエンジンを採用し続けてきました。 「Liquid Engineはとてもレベルの低いツールでした」とヤブロンスキー氏は言います。 「非常に軽量で、性能面でも非常に優れていました。 『Frostpunk』を作り始めたときは、正直に言うと、別のエンジンを選択するなんてことは考えていませんでした」
2020年、『This War of Mine』と『Frostpunk』の成功を受けて、11 bit studiosは事業を大きく拡大するタイミングだと判断し、一度に1つのゲームを制作する体制から、3つの大きな自社プロジェクトを進める体制へと移行し、多くの外部作品をパブリッシングするようになりました。 「(Liquid Engineで)すべての社内プロジェクトをサポートする考えでした」とヤブロンスキー氏は言います。
ヤブロンスキー氏のチームがLiquid Engineで『Frostpunk 2』の機能を作成する一方で、ユーズチェック氏とストカルスキー氏はプログラマー、アーティスト、デザイナーによる少人数チームと一緒に、まずは、Google Drawings、それからUnityを使用して、ボードゲームのプロトタイプとしてアイデアをテストしていました。 「私たちは、ゲームの基本的な構成要素であるアイデアをテストするためにビルド一式を用意していたのです」と語るのはストカルスキー氏です。 「デザインチームだけでなく、アートチームやテクニカルチームの力も結集して、ゲームが会社にとってどのような働きをするのか示すために、大きなプロトタイプを作ることになっていました。」
『Frostpunk 2』の開発が進むなか、『The Alters』や、社内ではProject EightやP8と呼ばれていた未発表のゲームのほかの社内プロジェクトを進めていたチームは、Unreal Engineで開発を進めた方が簡単になるだろうと判断しました。 ヤブロンスキー氏によると、社内技術を採用する問題点は、「技術を開発し提供するのと同時に、それを利用したゲームを制作している」ことにあるそうです。 「特定の機能の完成を待たなくてはならないため、ゲームデザインの反復プロセスにとって好ましくないのです。」
これは、11 bit studiosにとって特有の問題です。というのも、チームはタイトルが異なる場合はもちろん、同じゲーム内であってもひとつのジャンルに固執しないためです。 例えば、『This War of Mine』ではサバイバルゲーム、マネジメントゲーム、さらには『The Sims』の要素がミックスされており、それらすべてが横からの視点で表現されています。
「私たちは常に何らかの研究開発を行っているのです」とマーシャル氏は説明します。 「メカニズムの多くがユニークです。 すでに既製品のゲームが並ぶ棚から選ぶことはできないのです。 『Frostpunk 2』で現在起きていることですし、『The Alters』でも起こっていることです。同じことが、Project Eightにも言えます。 それが11 bitが抱える問題のひとつですが、最終的には、ユニークかつアイデアをサポートするものを届けることができるのです」
制作前の試作段階での遅れは、プロジェクトに大きな支障をきたす可能性があります。ストカルスキー氏は次のように説明します。「素晴らしいアイデアを紙の上にきれいに並べても、実行に移した際に、すべてが崩れ去る魔法のような瞬間がいつも訪れるのです。 実際に機能するものとして再構築しなくてはなりません」
設計対実装の挑戦は、リリース直前まで続きます。 「『Frostpunk 2』はシステム主導によるところが大きいゲームです」とストカルスキー氏は続けます。 「機能的に完成しているとは言いがたいです。 リリースの1週間前になって、システムを修正したり機能を追加したりしてバグを修正しなくてはならないかもしれません。 社内でも『ベータはいつ?』なんて声が上がります。 でも、私たちにとっては『ベータって何?』って感じですね」
『The Alters』とP8がLiquid Engineの採用をやめたとき、11 bit studiosでは、自分たちのあり方を問う大きな議論が巻き起こりました。 「私たちは、自分たちがエンターテインメント企業であることに気づいたのです」とマーシャル氏は言います。 「テクノロジー企業ではありません。 私たちのゲームはすべてアイデアが主導になっており、ジャンルやほかの要素が主導にはなっていません。 私たちは、その気になればまったく新しいジャンルを選ぶこともできるはずなので、(可能性を制限しない)エンジンを成長させることは、11 bit studiosのような規模の会社には不可能でしょう。」
「独自のテクノロジーを採用するには、それなりの理由が必要になります」とヤブロンスキー氏は言います。 「毎年似たゲームを作って、リリースしている場合もあるでしょう。 例えば、『FIFA』を作っているとします。 独自のテクノロジーパイプラインがすでにあり、固定されていて、あとは少しアップグレードするだけです。 私たちのような会社にとって、とりわけ1つのプロジェクトとデザインを行う体制から、3つのプロジェクトを同時にこなす体制に規模を拡大した後では、チームにとってそれは不可能な仕事となっていました」
ボードゲーム、Unityのゲーム、Liquid Engineのゲームとして始まった『Frostpunk 2』は、2020年末までに、技術チームによってそのすべてがUnreal Engineに移植されました。 「大変な時期でした」とヤブロンスキー氏は認めていますが、最終的には、スタジオが新たな技術チームを結成し、今後のタイトルのためにより優れた基盤を築くことができたのです。
それでも、ヤブロンスキー氏はすべてを振り返って、Liquid Engineを使用し続けることは「想像できない」と言います。 「数週間前、私はひどい悪夢を見ました。今と同じ開発段階にありますが、まだLiquid Engineを使い続けているのです。クラッシュし、機能が不足し、AMDアップスケーラーをゼロから実装といった内容でバックログがいっぱいなのです」と、ヤブロンスキー氏は笑いながら語りました。
ループからの脱却
意図的なアイロニーなのか、それとも純粋な偶然なのかはわかりませんが、『Frostpunk 2』の中核にあるのは、野望がはらむ危険性といったメッセージであり、同じ年に、11 bit studiosの大きな野望が成功するのか失敗するのかが、明らかになろうとしています。
「私たちは実現の年と呼んでいます」と、マーシャル氏は言います。5年間の集大成であり、11 bit studiosが1つのゲームスタジオから、複数のゲームを開発するパブリッシャーになれるかどうかが証明される瞬間です。 最初の大きな一歩が踏み出されたのは、2020年に『Frostpunk』の最後のDLCがリリースされた後になります。マーシャル氏とほかの創設者たちが、自分たちで責任を負うのではなく、開発リーダーに続編のディレクションを任せたのです。
「『Frostpunk』が終わった時点での会社の規模が、経営陣がゲームに携わることのできる最後の瞬間になるとわかっていました」とマーシャル氏は言います。 「成長するには、変化が必要でした。 私たちは、一緒にゲームを作っているリーダーが引き継ぐべき時が必ず来るとわかっていました。」
日々の開発から身を引き、成長させたチームに任せることで、11 bit studiosがリリースできるゲームを大幅に増やせると創設者らは考えたのです。 「私たちは野心的です。野心的なゲームを作りたいのです」と語るマーシャル氏。 11 bit studiosは、『Frostpunk 2』や『The Alters』、未発表のP8といった3つのゲームを社内で制作しているだけでなく、昨年リリースされた一人称視点のアドベンチャーゲーム『The Invincible』や、今月リリースされたクォータービューRPG『The Thaumaturge』など、外部のデベロッパーのゲームもパブリッシュしています。
「パブリッシングと社内開発で、年に3本から4本のゲームをリリースしたいと考えています」とマーシャル氏は続けます。 「まだそこには達していませんが、あと2つか3つのステップで、AAAの有意義な作品を送り出せればと思います。」
『Frostpunk 2』の街を曲がりくねって進む光り輝く軌跡が、それを形成する労働者以上のものの象徴であるように、このゲームは11 bit studiosにとって、人気シリーズの続編以上のものを象徴しています。 「私たちが何年も前に始めたこの戦略を実現することが大切になります」と語るマーシャル氏。「ゲームを同時に制作できること、300人ほどの従業員を維持できること、経営陣が携わることなく素晴らしいものをお届けできること証明するのです。」
とはいえ、『Frostpunk 2』のテーマについて、ユーズチェック氏は「野心が芽生え、行動するチャンスに恵まれ、人々が構想を練り始めると必ず、欲求や欲望といった内なる悪魔が呼び起こされます」と語っていました。しかし、彼は続けて「彼らの良い感情、つまり繁栄させて社会を形成し、私たちが彼らよりも良く生きられるようにしたいという願望」も呼び起こされると付け加えていました。
『Frostpunk 2』から学べるかもしれない教訓のひとつは、野心そのものは悪くないが、野心が求める成長は、苦闘してこそ良いものになるということです。