
『トゥームレイダー』そしてララ・クロフトが持つ多数の顔

ララ・クロフトとは何者なのでしょうか?
25年以上にもわたって、『トゥームレイダー』シリーズの顔となるこの大人気キャラクターには、一連のクリエイターたちによって独自のアレンジが加えれ、ゲームと映画の両方において果てしなく思えるほどの変貌を遂げ続けてきました。
こうした変化によって、彼女は歩く「矛盾」となりました。 彼女はゲームにおける強い女性主人公のまれな例であり、苦悩する乙女としてではなく、墓をあさり恐竜を撃つヒーローとして描かれてきましたが、同時に、女性として存在するという理由だけで過剰に性的対象として扱われてきました。 彼女は、そのアイデンティティと生い立ちが絶えず変化しているにもかかわらず、その唯一の存在感と容姿でよく知られているキャラクターでした。
ララ・クロフトは多くの人々にとって様々な意味を持つ存在ですが、ひとつだけ一貫していることがあります。それは、彼女がビデオゲーム史上最も有名なキャラクターの一人であり、ポップカルチャーのアイコンでもあるということです。
そんなキャラクターを世に送り出した『トゥームレイダー』のオリジナル三部作がいま、新しいリマスター版『Tomb Raider I-III Remastered』となって帰ってきます。 大きな実験が行われていた黎明期の3Dパズルアドベンチャーゲームでありながら、これらのタイトルは今日でも魅力的で面白いレトロゲームとして通用します。
しかし、これらのゲームを2024年にただ漠然とプレイするだけでは、それらがリリースされた1990年代のポップカルチャーやゲームの受け入れられ方に与えた即時かつ永続的な影響、ララ・クロフトがイギリスの小さな開発者グループのアイデアから勢いよく放たれ、ほぼ一瞬で世界的なスーパースターになった過程が無視されることになります。
声
本シリーズは今日のゲーム界で最も有名な作品のひとつですが、『トゥームレイダー』の1作目は、開発初期においてリスクの高い提案でした。 3Dゲームは黎明期にあり、プラットフォームや複雑なパズル探索はまだ比較的珍しいものでした。 そして、女性主人公は、当時のゲームにおいて一般的ではありませんでした。 このキャラクターに命を吹き込むことになった初代の声優でさえ、声優の世界では比較的経験が浅かったのです。
ララ・クロフト役を演じるまで、シェリー・ブロンド氏のキャリアはテレビと舞台が中心でした。 ララ・クロフト役のオーディションを受けたとき、彼女はこの世界に足を踏み入れたばかりで、オーディションは仕事を得るためというより、経験を積むためのものでした。

声優の経験が浅かったのはブロンド氏だけではありません。本作の開発チームも同様でした。
「『トゥームレイダー』の声優を務めたのは私が25歳か26歳の時でした」とブロンド氏は語ります。 「19歳で演劇学校を出ると、ショーやツアーなどを行い、ビル・ケンライトさんなどとかなりロックンロールなミュージカルに出演していました。 彼は、私がウェスト・エンドで『Only the Lonely』や『Elvis: The Musical』などに出演していたころのプロデューサーで、そこで私は何曲か歌うことができました。 それがきっかけで[イギリス国内で]テレビに出るようになり、『Trouble TV』や『CITV』の司会を務めました。 コマーシャルにも出演し、それから声優の世界に足を踏み入れたのです」
「[当時]私のエージェントが、ゲームの女性キャラクターを演じられそうな人を何人か教えてほしいと頼まれたそうで、私にやってみないかと言ってきました。 彼らは6か月から9か月も声優を探していたので、私がその役に抜擢される可能性はそこまで高くないとエージェントは耳にしていたものの、未経験の私がオーディションの経験を積むのにいいだろうと考えたのです。 私はセリフをいくつかカセットテープに録音して、ポストに投函しました。その結果ダービーとロンドンにいる何人かと電話会議をすることになり、そこで話をしたところ、もう一度セリフを言ってくれと頼まれました。 そして電話の最後に、君に決まったと言われたんです!」
ブロンド氏によると、『トゥームレイダー』は特に「女性主人公」のゲームであることから、チームは本作がどの程度成功できるか確信が持てずにいたということです。
「チームは、型から逸脱する余地がほとんどないプロセスで、思い描いたとおりに『自分たちの子供』を世に送り出すことについてとても慎重でした」とブロンド氏。 「私にはこのキャラクターについて発言権がありませんでした」
「自分の個性を出すことも時にはありましたが、下品になりすぎたり、セクシーになりすぎたりするのを控えてくれと言われました。 私自身が演じるキャラクターがセクシーだったというわけではなく、ただ私には彼女がとてもセクシーに見えたのです。だから、あまり直接的になりすぎないようにしたいと思うこともありましたが、大切なのはそのバランスを見つけることでした」
結局、ブロンド氏がキャラクターに声を吹き込んだのはスケジュールの都合で『トゥームレイダー』の1作目のみで、オリジナル三部作の2作目と3作目ではクリップの一部が再利用されることになりました。 ジュディス・ギビンズが追加の音声収録を引き継いでオリジナル三部作を締めくくり、その後の続編では、ジョネル・エリオット、キーリー・ホーズがララ・クロフトの声を担当しました。
その時代の文化的な精神
シリーズが瞬く間に成功を収め、ララ・クロフトがカルチャーのメインストリームへと押し上げられた結果、ゲームというメディアをはるかに超えた、成長する業界のアイコンとして注目を集めることになりました。 ゲームの面白さが彼女の人気に貢献したのは間違いありませんが、ララ・クロフトが当時のゲームではほかに類を見ないキャラクターであったことも大きな要因です。 彼女は謎に包まれた存在で、『インディ・ジョーンズ』のように勇敢な探検家でしたが、多くの男性ゲーマーを虜にしたキャラクターでもありました。 多くの少年たちが、彼女で性に目覚めたのです。
この後者の点は間違いなく完全性を損なう要素で、女性蔑視と欲望の象徴となる容姿を作り出し、キャラクターのほかの性質を目立たなくしました。 しかし、ララ・クロフトのキャラクターを一辺倒にしたからこそ、彼女は1990年代のカルチャー的な精神へと押し上げられたのです。 ララ・クロフトはツンとした胸が「魅力」である「セクシーな女性」としてゲーム雑誌のいたるところに顔を出しました。マーケティングまでもが、このセックスアピールをシリーズのセールスポイントとして売り出そうとするまでに、そう長くはかかりませんでした。

実際のところ、ララ・クロフトはつい目を奪われてしまうだけの存在ではありませんでした。 当時としては珍しく、危険な冒険に挑む彼女の強さと自立心に、多くの女性プレイヤーはフェミニストとしての力を見出したのです。 しかし、開発者たちまでもが介入せざるを得なくなったほど、話題をさらったのは彼女のキャラクターが欲望の的となるその外見だったことは無視できません。 『プレイボーイ』の紙面でこのキャラクターのヌードが描かれるのを防ぐために、訴訟を起こすという脅しも必要になりました。
状況がどうあれ、『トゥームレイダー』はヒットしました。 続編もすぐに登場し、最初の続編は1作目のわずか1年後にリリースされました。 新しい物語が誕生するたびにララ・クロフトの物語は成長し、年月が経つにつれて、キャラクターの過去についてより多くのことが明らかになりました。 私たちは、このアバターを深みと重みのある人物に変貌させる新たな解釈を得たのです。 たとえ彼女のイメージが変わらなかったとしても、彼女の生い立ちの流動性と絶えず変化する性質により、ララ・クロフトは探求や再解釈されることが可能なキャンバスとなり、あらゆる年齢層の人々が共感できるインスピレーションとなったのです。
ハリウッドでの描写
2001年には、アンジェリーナ・ジョリーがララ・クロフト役で主演を務める大規模なハリウッド映画も公開されました。 原作のゲームとは異なり、このララは父親を亡くし、13歳で孤児になりました。母親も幼い頃に亡くなっています。 父親と関係のある時計を発見した彼女は、謎めいた父の死にまつわる答えを探す旅に出発し、失われた遺物を求めて、マンフレッド・パウエルとイルミナティに挑むことになります。
冒険に出発する理由としてはいささか説得力に欠けますが、映画は原作のゲームのイメージと雰囲気を保ちながらも、シリーズがそれまでに探求してきた以上のものになっていました。 実際、ジョリーは、映画のララがより構想を膨らませた生い立ちにより、明らかに異なるキャラクターになったものの、映画でこのキャラクターを演じる際に、演技の抑揚やアプローチに配慮したとさえ話していた、とブロンド氏は友人から聞かされていました。

「私の友人がこの映画に携わっていて、現場で彼女に会いに行き、挨拶したんです。 アンジェリーナ・ジョリーに何か言わなくてはと、私が友達なんだと話したところ、彼女はすごいと答えたそうです。 彼女は役柄に合った調子を見つけるために、私の声を何度も繰り返し聞いたというのです。 本当のことでしょうか? 真相はわかりません。もしかしたら、この話を私にするだろうと思って、とても優しく振る舞ってくれただけかもしれません。 どっちにしろ、彼女は完璧なキャスティングだったと思います」
複数のリブート作品
ララ・クロフトというキャラクターを進化、あるいはリブートさせる試みは、2001年の映画のほかにもたくさんありました。 2000年代半ばに開発会社がCore DesignからCrystal Dynamicsに移行し、ゲームの最初のリブートが行われました。 ブルーのライクラシャツは茶色の色合いに変わり、母親を捜すなかで、彼女が墓を探検する方法にもより多くの目的が与えられました。 ララと母親だけがヒマラヤでの飛行機事故の唯一の生存者でしたが、すぐに母親は2人が避難したネパールの寺院の中で謎の失踪を遂げます。 冒険の術を教えた父親もララが16歳の時に失踪し、ララは答えを見つけ出すために考古学者となったのです。
2013年にララ・クロフトはさらにリブートされ、ララは自ら進んで略奪する人物としてではなく、より気骨のある生存者として描写されるようになり、ゲームプレイ体験はアドベンチャープラットフォーマーから、その年代のゲーム業界に登場した、莫大な予算が投じられたキャラクター主導のほかの大ヒットアクションタイトルに似たものへと進化を遂げました。 これはるかに映画的な体験となり、この(カミラ・ルディントンが演じた)キャラクターの解釈が、アリシア・ヴィキャンデルが主演を務める2018年のリブート版映画のインスピレーションとして選ばれ、モデルとなったのにも頷けます。
演じる俳優が新しくなり岐路に立つたびに、キャラクターは進化を遂げ、紛れもなくララ・クロフトであり続けながらも、変化していくその時代の基準に合わせながら大きく変わっていきました。 2000年代半ばになると、ララ・クロフトのゲームの成功により、彼女のようなキャラクターのための市場が存在することが証明され、女性主人公という存在の特異さが薄れた結果、『ファイナルファンタジーX-2』の女性のみのメインキャスト、『Beyond Good and Evil』のジェイドなど、その他多くの女性キャラクターへの道が開かれました。 ララは人気がありましたが、彼女のキャラクターにはほかのキャラクターに見られるような深みが欠けていました。しかし、この問題は、後に原作の共同制作者であるトビー・ガード氏が深く関わった改革によって修正されました。
2013年までに、業界全体が変化しました。 『アンチャーテッド』シリーズは、それ自体が『トゥームレイダー』シリーズや同作品が同じく影響を受けている『インディ・ジョーンズ』といった様々な作品から多大な影響を受けながらも、ゲームのHD時代の到来によっていわゆる映画のようなストーリーテリングが求められるなかで、プレイヤーの期待を変えていきました。 こうして、パブリッシャーのSquare EnixとCrystal Dynamicsがこの新しい世代向けにララ・クロフトの再解釈に取り組んだ際、私たちはこれまで以上に彼女の心を深く理解することになりました。 プレイヤーがララを次のエリアへと導きながらただタスクをクリアするのではなく、ゲームの出来事を通して、生き残ろうとする彼女の心理的影響をこれまで以上に親密に目撃することができたのです。
以前のタイトルからの雰囲気の変化は一目瞭然でした。 ブロンド氏でさえ、彼女が演じたララ・クロフトとほかのララ・クロフトの類似点を見つけるのに苦労すると述べています。
「私が演じたララ・クロフトの中に私の存在があるか?といえば、 あります。 では、ほかのララ・クロフトの中にあるか?というと、 まったくないのです」とブロンド氏は話します。 「別の人の声が吹き込まれた瞬間、ララはまったく異なる人生を歩むことになりますが、みんながそのララを愛してくれるのはとても素晴らしいことです」
ブロンド氏はまた、それぞれのプレイヤーが持つクロフト像は、彼らが最も思い入れのあるララ・クロフトそのものになることも認識しています。 「二代目から入った人もいれば、カミラ・ルディントンの映画的な作品から入った人もいます。私が担当したゲームは、そんな人たちにとって最も思い入れのあるキャラクターが登場する作品とはならないでしょう」
しかし、Core Designとブロンド氏による最初のキャラクターの描写がなければ、同シリーズやその後の多くのララ・クロフトは、いま存在していなかったかもしれません。 変化を遂げていても、メインストリームのスターダムにのし上がった同じキャラクターから誕生したものであり、ララ・クロフトであることに変わりはありません。
1990年代を生きた人なら、誰もがララ・クロフトの存在を知っています。 ブロンド氏は、このキャラクターの人気があまりにも世間に浸透していたため、彼女のテレビでの司会と声優の世界がやがて衝突するのは避けられないと感じていたと振り返ります。ちなみに『Trouble TV』に出演していた際に参加した子供向けテレビ番組の住宅リフォームコーナーは、愛情を込めて『Room Raider』と名付けられていました。
リマスターされた三部作
時代は変わり、ゲームは1990年代に『トゥームレイダー』やほかのゲームが踏み出した3Dへの原始的で不確かな歩みをはるかに超える進化を遂げましたが、当時のゲームには、それを実際に経験したプレイヤーと、過去の作品を経験してみたい若い世代の両方に訴えかける紛れもない魅力があります。
しかし、これらのタイトルを昔のプレイヤーの記憶にある古典的な雰囲気に維持しながら、すべてのプレイヤーが楽しめるものにするのは容易なことではありません。 『トゥームレイダー』の最初の3作品を新世代に向けてリマスターしたAspyrのチームは、多くの熱狂的なファンにとっての体験を特徴付ける要素を取り除くことなく、新規プレイヤー向けにゲームを単純化するアプローチを採用しました。
「[私たちの意思決定の]核となる柱は、問題点を取り除いて[同時に]魅力的な部分を維持することです」と語るのは、Aspyrのプロダクトディレクターを務めるクリス・バシャール氏。 「『Tomb Raider I-III Remastered』では、グラフィックを現代的にしながら、プレイヤーにオリジナルのラジコン操作と新しい操作のいずれかを選択できる方法を見つけたいと考えていました。 新しくなった操作については、『トゥームレイダー』の『レジェンド』、『アニバーサリー』、『アンダーワールド』の時代からインスピレーションを得ており、ほとんどララが動くとおりの感覚です。右スティックでカメラを完全に操作でき、カメラの位置によってララの動く方向が変わります」

昔ながらの体験を味わえる当時のラジコン操作でプレイしたい人はこれを選択でき、2本のアナログスティックでの現代的な操作に慣れたプレイヤーには、より馴染みのある体験に徹する選択肢も用意されています。 ゲームのビジュアルに関しても同様のアプローチが取られ、原作の趣向を維持しながらも、現代の技術でリマスターされているとバシャール氏は説明します。
「私たちはCrystal Dynamicsと協力して、新しいモデル、環境、敵とともに、ベイクしたライティング効果とリアルタイムのライティング効果を追加しました。 すべての変更は、各アセットのオリジナルのビジョンと一致させるために、直接並べて比較しながら行われました。 ジオメトリを同じままにすることで、アートの改善と引き換えに『トゥームレイダー』の雰囲気が損なわれることのないようにしました」
そのおかげで、現代のハードウェアとの互換性の問題や原作の不便な操作が原因で、多くの人々がプレイできないと感じていた古典的な体験を、新しい世代にも届けられるようになりました。 『トゥームレイダー』シリーズのオリジナル三部作は、面白いアドベンチャー体験として現代でも通用するだけでなく、保存し、語り継がなくてはならないポップカルチャーの歴史の一部なのです。 ゲーム、ひいてはポップカルチャーは、ララ・クロフトが持つ多数の顔なくして今と同じものにはなり得ません。
インタビューの終盤でブロンド氏がこう語っています。「最近、ディズニーのドキュメンタリーシリーズで、1990年代に起きたことすべてを描いたものがあり、その中の『Girl Power』というエピソード用に、ララについて私にインタビューしたいと言われました」 「スパイス・ガールズも特集しているなかで、私にインタビューしたいと言ってきたんですよ! 本当に信じられないことですが、彼女にはそれだけのインパクトがあり、彼女の存在意義が大きいことを物語っています」
「すごいと思いませんか?何年経とうと、ララが成し遂げたことは色褪せないんです」