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『Star Overdrive』:小さな開発チームが生み出した、大規模なオープンワールドSFアドベンチャーの舞台裏
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Paul Cecchini
驚くべきことに、『Star Overdrive』はAAAタイトルではありません。むしろ、AAAとは程遠いところに位置します。 インディースタジオのCaracal Gamesは、たった3人の開発者からなる小さなグループとしてスタートしました。創業から10年が経った今では、スタジオもかなり大きく成長しているだろうと思われるかもしれませんが、現実はそうではありません。チームの人数も3人から12人に増えただけです。これがまさに創設者兼CEOであり、『Star Overdrive』のクリエイティブディレクターでもあるトマソ・ボナンニ氏が望んでいることなのです。
「Caracalは、少人数のチームでやるというのが基本の考え方なんです」とボナンニ氏は語ります。「そうすることで、コミュニケーションの無駄がかなり減るんですよ。やり取りの仕組みも、すべて私が把握しています。メンバーは必要なことがあれば私に直接話すので、作業もとてもスピーディーに進みます。私たちがこうして大規模なゲームを開発することができているのもそのためです。お互いのやり方を理解していて、一緒に働くのが楽しいと思える関係なんです。みんな本当に素晴らしい人たちで、才能もあるし、経験も豊富な頼りになるベテランばかりです。私よりもはるかに経験を積んできた人たちと一緒に仕事をしています」
最終的にボナンニ氏は、わずか12人のチームで50人から60人の開発チームに匹敵する仕事量をこなせたと推定しています。「少なくとも5倍は効率的ですよ」
『Star Overdrive』のアイデアは、ホバーボードという、ひとつのシンプルな発想から始まりました。1980年代のアメリカ文化の大ファンであるボナンニ氏は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』でホバーボードを初めて目にした瞬間から、そのアイデアに魅了されたのです。ボードのスタイルやデザインは、日本の漫画シリーズ『交響詩篇エウレカセブン』からの影響も受けています。ゲームプレイに関していえば、チームは『ゼルダの伝説』シリーズ、特に『ブレス オブ ザ ワイルド』からインスピレーションを得ています。「これらのゲームに込められた冒険の哲学は素晴らしいと思います」とボナンニ氏。「私たちが大好きな要素がたくさん詰まっているんです」

もちろん、ホバーボードをかっこよくするにはスピードが欠かせません。問題は、キャラクターの移動速度が速くなるほど、移動距離も長くなることです。移動距離が長くなれば、ゲームに必要なマップの面積も増えます。インディースタジオである彼らには、途方もなく大きなマップを作る時間も予算もありませんでした。それでも『Star Overdrive』のマップは135平方マイル(約350平方キロメートル)という、相当な広さのマップを実現しています。
『ブレス オブ ザ ワイルド』のような超大作と比べると比較的小さいサイズではありますが、それでも面白い場所がたくさん詰まっています。『Star Overdrive』の場合、その数は300か所以上にもなります。「マップは、ほとんどすべて私ひとりで作りました。プロシージャル生成のツールは、草木くらいにしか使っていません」とボナンニ氏は語ります。「それ以外は全部、手作業です」
プレイヤーが次の目的地にホバーボードで向かう間も興味を失うことがないように、この砂漠の惑星には、ホバーボードでイカしたトリックを決めるのにぴったりな砂丘がたくさん用意されています。空中でトリックを成功させると、着地時に軽いブーストがかかり、次の砂丘へと進みやすくなります。砂丘は戦略的に配置されており、ひとつの砂丘に到達して着地すると、すぐ近くに次の砂丘が見えるようになっているため、プレイヤーは自然と次に進む方向が把握できます。
「ホバーボードはマップのために作られていて、マップはホバーボードのために設計されています」とボナンニ氏。「ジャンプして、トリックを決めて、着地して、ブーストして、次の砂丘を探す。この一連のループこそが、ゲームプレイの核となっているんです」

ボードが地面に接触しないものの、一般的な空中移動では味わえないような方法で、プレイヤーが一瞬一瞬のアクションに没入できるように設計されています。「もしハリー・ポッターのほうきみたいな飛び方だったら、ただ飛んでいるだけで環境に関わることがなくなってしまったでしょうね」とボナンニ氏は言います。「地面から離れすぎていると、スピードを感じられないんですよ。(『Star Overdrive』で)スピードを感じるのは、プレイヤーが地面の近くを移動しながら、ジャンプやトリック、ブーストといった操作を絶えず繰り返しているからなんです。それによってプレイヤーは『乗っている感覚』を得て、ゲームに没入できるようになります。この感覚を作り出すのが、デザイン面で一番難しかったことですね」
もちろん、ホバーボードは単なる移動手段ではありません。「ホバーボードはとてもユニークなので、ゲーム内のあらゆる要素の中心にする必要がありました」とボナンニ氏。「物語もホバーボードを中心に展開します。クラフトはボードを強化するために行い、戦闘も同じです。ゲームで行うすべてのことがホバーボードと結びついています」
『ゼルダの伝説』のリンクと同じように、『Star Overdrive』の主人公バイオスは何も話しません。彼の感情表現は、カットシーンでのうなり声や顔のアニメーションに限られています。一般的に、開発者はプレイヤーが自身の個性をキャラクターに投影しやすくなるよう、無口の主人公を採用します。しかし、バイオスが沈黙している理由には、もっと深い背景があるのです。
ボナンニ氏はこう語ります。「彼が無口である理由は3つあります。物語上の理由、技術的な理由、そして創作上のインスピレーションです。まず1つ目ですが、もしキャラクターが話していたら、『ブレス オブ ザ ワイルド』にインスパイアされたゲームではなくなります。リンクは無口ですよね。ゼルダが代わりにすべて話します。それが私たちにとって非常に重要なポイントでした。2つ目は技術的な理由です。私たちは、キャラクターのノースに200%の力を注ぎました。彼女がゲーム内の感情をすべてつき動かします。プレイヤーが救うべきキャラクターは、主人公よりもずっと魅力的であるべきだと私たちは考えています」

ボナンニ氏はこれを『The Witcher』と『Skyrim』という2つのゲームの違いで説明しています。「『The Witcher』で、プレイヤーはゲラルトとしてプレイします。もちろん選択肢があり、彼がどう行動するかには多少の幅がありますが、ゲラルトであることに変わりはありません。「一方で、『Skyrim』や『ポケモン』のようなゲームでは、キャラクターはプレイヤーの感情を投影するための存在になっています」
物語上の理由としては、バイオスはかつてノースとバンドを組んでいて、皮肉なことに彼はボーカルを担当していました。彼女が姿を消したあと、バイオスは完全に言葉を失ってしまったんです。こうした情報は、プレイヤーがゲームの世界を探索しながら、2人の関係について詳しく語るカセットテープを見つけていくことで、少しずつ明らかになっていきます。
「彼にとって、それはとても大きな心の傷でした」とボナンニ氏。「私たちは、プレイヤーに物語を通してこのことを見つけ出してほしいと考えています。『Star Overdrive』には、とても深い世界観が構築されていますが、物語の中心にあるのはこの2人です。過去にどんなことをしていたのか、何が好きで何が嫌いか、この世界やこの銀河の物語、この銀河に武器が存在しない理由など、あらゆる要素です。もちろん、すべてをゲーム内に盛り込む余裕はありませんでしたが、開発中に疑問が生じた時にいつでも確認できる参考資料がありました」
前述のとおり、12人の小さなスタジオは、限られたリソースで多くのことを成し遂げました。『Star Overdrive』のスケールとチームの規模にもかかわらず、開発期間を通して事実上チームが切羽詰まった状態に陥らなったことについて、ボナンニ氏は誇りに思っています。そして、規模の大小を問わず、他の開発者にこの作業方法を実行するためのインスピレーションと知識を提供したいと考えています。
「これについて1時間の講演を行っています。前向きな社風をどのように作り、維持するか、そしてそれが生産性にいかに強い影響を与えるかについて話しています」とボナンニ氏は説明します。「私にとって、これはとても重要な話題です。Caracalがうまく機能しているのは、私たちがやっていることを心から楽しんでいるからなんです」このチームは、相性のとても良い人たちを選びながら、10年かけて育ててきたものです」

チームのつながりは、職場だけにとどまりません。インタビューの1週間後、ボナンニ氏とチームメンバーたちは、イタリア中部の湖で一緒に楽しい休暇を過ごしました。「私たちは開発者というよりも兄弟のような関係なので、一緒に働くのも、休暇を過ごすのも大好きなんです」と彼は言います。
チームのやる気や満足度を維持するには、各メンバーの働き方やペースを理解し、しっかりと連携を図ることが重要です。これはチームの人数が少ないほど簡単です。ボナンニ氏は、チーム全員に『Star Overdrive』が自分のゲームだと感じてもらいたいと思っています。
「たしかに私はクリエイティブディレクターですが、メンバー全員が作者なんです。だからこそ、私はこの講演をしています。過酷な作業で疲れ切ることなく、自分のやっている仕事に満足しているほど、効率が増すことを皆さんに伝えたいからです。私たちは1日8時間、長くても9時間しか働きません。でもその方が、倍の時間働くより、ずっと効率的なんです」とボナンニ氏は説明します。
彼がもうひとつ挙げるヒントは、「開発を始める前にリサーチをしっかり行うこと」です。この事前計画によって、Caracalは開発中の遅れを吸収できる十分な余裕を持つことができました。最終的に『Star Overdrive』を当初の予定より数か月早くリリースする必要に迫られたため、これは非常に重要なことでした。

おそらく『Star Overdrive』にとって最大の功績は、ゲームのインスピレーション源となった会社から称賛を受けたことかもしれません。「東京でゲームを売り込む機会を任天堂からいただいた時は、最高に幸せな瞬間でした」とボナンニ氏は振り返ります。「私たちは『ブレス オブ ザ ワイルド』にインスパイアされたゲームを作りました。任天堂はそれを気に入り、(期間限定の)独占配信をしたいと言ってくれたんです。つまり、任天堂の代表的な知的財産に影響を受けた作品に対し、任天堂自身からお墨付きをもらったわけです。これは、起こりうる最もすばらしいことですよ」
『Star Overdrive』は、単体のゲーム以上の作品として設計されています。『Star Overdrive: Deluxe Edition』には、ゲーム本編には含まれていない特別な物語とキャラクターの過去により深く踏み込んだオリジナルの漫画が収録されています。また、楽しいサイドプロジェクトとして、チームはゲーム内でバイオスとノースが大ファンであるVan Halen風の架空バンド(その名もStar Overdrive)も生み出しました。興味をお持ちのプレイヤーは、この架空バンドによる12曲入りアルバムを各種音楽配信プラットフォームで購入できます。ボーカルはボナンニ氏本人が、ギターはゲームのサウンドデザイナーが担当しています。
ボナンニ氏とチームには、彼らが作り上げたこのエキサイティングな新しいSF世界で語るべき物語が、まだまだたくさんあります。バイオスとノースの出会いや関係性の深まり、ノースがこの無人の惑星にどうやって辿り着いたのか(それはゲーム内でもほのめかされています)、そしてゲームの最後に明らかになる驚くべき展開の後に何が起こるのか、そういった部分をさらに掘り下げていきたいと考えています。
「これはまだ氷山の一角にすぎません」とボナンニ氏は言います。「(今作で)ノースが惑星で経験した物語はとても興味深いですが、複雑すぎるうえスケールも大きかったので、バイオスの章に取り掛かることにしました。次に作りたいゲームは前日譚です。今作でも過去の一部は描かれていますが、この2人の強い絆がどうやって築かれていったかは、まだまだ語り尽くせていません。もっと漫画を作りたいし、もっと音楽も作りたい。アニメーション作品にも挑戦したいと思っています。でも、それを実現するには資金が必要です。まずは、このゲームが良い成果を上げる必要があります。次作が『Star Overdrive 2』になるのか前日譚になるのかは、まだわかりません。でも、この物語を続けていきたいですね」
Caracal Gamesの12人の開発者にとって、今後どんなプロジェクトに取り組むとしても、『Star Overdrive』は誇りを持って振り返ることのできる作品です。「小さなチームですが、あらゆる技術的な困難を乗り越えて、任天堂のお墨付きまでいただき、大きな仕事をやり遂げました。この結果には、本当に満足しています」とボナンニ氏は語ります。
『Star Overdrive』はEpic Games Storeで入手可能です。