
インタビュー:『グーの惑星』の勝利の帰還では、流れるようなネバネバ、ドロドロしたグーが主役

2008年、ゲーム業界が変化を迎えました。 たった1つの作品のリリースをきっかけに、すべての基準が変わり、インディーゲームとAAAゲームを分ける境界線が曖昧になり始めたのです。 その作品とは、2D Boyが生み出した史上最高のパズルゲームの1つ『グーの惑星』でした。 それから15年以上経った今、続編を制作するために、当時のクリエイター2名に少人数のチームが加わりました。 その理由とは!? なぜ今になって!?そんなわけで、ロン・カーメル氏とカイル・ガブラー氏、そしてこの2人の新たな仲間たちを取材し、その答えを探ってきました。
『グーの惑星』は、それまで目にしたことのない新鮮なゲームでした(『Tower of Goo』のプロトタイプは別としてですが。この際ささいなことは言いっこなし)。 このゲームが際立っていたのは、元気一杯の小さな球体の塊同士を近づけるとしっかりとくっついて、他の塊がそれに沿って移動できるようになるというユニークな仕組みだけではありません。大胆なアニメ調のグラフィックと絶妙な音楽、そして(おそらく最も重要なことに)4つの異なるチャプターで展開される魅力的なストーリーが組み合わされた、その素晴らしい演出によるところが大きかったのです。
これは魅力的な素晴らしいアイデアから始まり、それをいったん脇に置いて別のアイデアを取り入れるも、さらに良いアイデアが浮かんだためにそれもすぐに却下するという、そんなゲームだったのです。 いずれのメカニズムも独自のゲームとして十分に通用するほど優れていましたが、絶えず進化し、驚きを与え続ける自信が『グーの惑星』にはありました。 また、開発者の二人がスターバックスをオフィス代わりに、ノートパソコンをスタジオ代わりに使っていたことなど、独自の伝説を生み出した作品とも言えます。
もちろん、これは一過性のものではなく、さまざまな出来事が重なって、劇的な変化を引き起こすことになったのです。 そのわずか1年前、ValveはSteamでサードパーティのゲームを販売することを許可し始めました。2008年に同プラットフォームでリリースされたゲームはわずか179作品だったため、新作への注目度は非常に高いものでした。
これはまた、パブリッシャーのサポートを受けずにゲームを発売することが初めて現実的になり、そして小売店の売り場に頼らずヒット作を生み出すことが可能になったことを意味しました。 『Peggle』のようなゲームが道を拓き、想像力豊かで低予算のパズルゲームに対するプレイヤーの興味を引き出し、そして『Vigil』、『Aquaria』、『Gish』といった、数少ない勇敢なインディーゲームが、後に続くゲームのための足がかりを残していったのです。

それでも『グーの惑星』は革新的なものに感じられました。 文字通り、一夜にして大成功を収めたのです。 莫大な収益を上げ、本来はちっぽけなインディーゲームであるこの作品は、当時PR会社からの情報以外は見向きもしないのが普通だった有名ゲームサイト各社に大々的に取り上げられたのです。 DRM(デジタル著作権管理)なしでリリースしたことで話題を呼び、さらにゲームへの海賊行為が推定90%であることに対して開発者がまったく気にしないと発言したことで、再び話題となりました。 さらに1年後には、海賊行為を働いた人々に対し、ゲームの価値に見合った金額を支払ってもらうという恩赦セールを実施し、1週間で10万ドルの売上を記録しました。
きっと皆さんは、次に2D Boyがどんな作品を作ったのか気になっていることと思います。 実は… 何も作りませんでした。 それきりだったのです。 その後カイル・ガブラー氏は自身の新しいスタジオTomorrow Corporationでゲームをリリースし、ロン・カーメル氏はIndie Fundを共同で立ち上げました。 そして、これまで2D Boyは一発屋で、今後もずっとそうだろうと思われていました。 少なくともこれまでは。
では、なぜ今になって?
「ひざを曲げると音が鳴るんです」とガブラー氏が説明します。 「先に老いが来なければ、AIがやって来ます。 じきに、誰もゲームを作る必要がなくなってしまうでしょうね。コンピューターには私たちが好むような娯楽空間だって作れるんですから」 なるほど。 そういうことだったんですね。 「だから」とガブラー氏は続けます。「完全に時代遅れになる前に、あのぶっ壊れた手作りの、おんぼろでがらくた置き場みたいな、人間的な物作りのやり方で、もう一度『グーの惑星』を体験したければ、これが最後のチャンスになると思ったんです」
といっても実際には、ガブラー氏はその手腕を他でも発揮し続けています。 Tomorrow Corporationは『リトルインフェルノ』や『ヒューマン・リソース・マシーン』、『セブン・ビリオン・ヒューマンズ』をリリースしてきました。 『グーの惑星』の続編で2D Boyに加わるのはTomorrow Corporationですが、どうやらチームは拡大し続けているようです。 「この15年の間に、二人とも父親になりました」とガブラー氏。「そのおかげで、生産性は0.2倍と飛躍的に向上しました! 4歳になる息子は、ピーナッツバターをつけた指で私のキーボードを押しながら、『僕が仕事をするよ!』と言うんです」
一方、ロン・カーメル氏は別の道を進みました。 「ゲーム業界から徐々に離れていきました」とカーメル氏は語ります。 「友人たちとIndie Fundを共同設立した後、父親になり、ノエル・ロピス(現在は『World of Goo 2(グーの惑星2)』チームのメンバー)と[モバイル戦略ゲーム]『Subterfuge』を制作しました。また、調停者として訓練を受けてボランティア活動を行い、サン・クエンティン刑務所で男性グループのまとめ役を共同で務めました。そして、ソマティック心理療法のトレーニングを数年受けた後、開業して患者を診るようになりました」
これを聞けば想像できると思いますが、ゲーム開発に費やす時間はほとんど残されていなかったのです。 「カイルと私が『World of Goo 2(グーの惑星2)』のアイデアを探り始めたのは、そうしたトレーニングの最中でした」とカーメル氏は話します。「そのため今は非常勤で『World of Goo 2(グーの惑星2)』のチームに参加し、また患者も診ているんです」

『グーの惑星』が純粋に素晴らしいゲームであることはさておき、あれほどの現象を巻き起こした理由について、カーメル氏とガブラー氏はどう考えているのでしょうか。 ゲームの成功は起こるべくして起こったことでしたが、似たようなゲームが今日受ける反応と異なっていたことは確かです。
カーメル氏はこう説明します。「『グーの惑星』はタイミングに恵まれたのが本当にラッキーでした。 デジタル配信が本格化し、当時の主流であった『ハードコアゲーム』や『カジュアルゲーム』とは異なる、風変わりで素晴らしいゲームへの欲求が高まっていたのだと思います」
カーメル氏は、同じムーブメントの一端を担った、彼が言うところの「既存の市場に収まらなかった」作品として、他に『Gish』、『Darwinia』、『Braid』、『Audiosurf』、『flOw』、『Spelunky』、『Super Meat Boy』を挙げています。 「私たちのような初期のインディー開発者の多くは知り合いか、少なくともお互いの存在を認識していました。 互いに刺激を与え合い、GDCやその他のイベントで一緒に過ごしました。 強いコミュニティ意識があったんです。 何かが起きていて、自分たちもその一部なんだという感覚はありましたが、それが何なのかはよくわかっていませんでした」
「スティーブ[スウィンク氏]とマシュー[ウェグナー氏]のアリゾナにあるFlashbangのオフィスに集まった時のことを今でも覚えていますよ」とガブラー氏が続けます。「すでに『Aquaria』をリリースしていたデレク・ユー氏もいて、手続き型生成の要素を取り入れた新しい2Dプラットフォーマーに取り組んでいました。 それが『Spelunky』現象の始まりになるとは、私たちの誰も、当の本人すら知らなかったんです」
この連帯感と変革はとてもパワフルで、カーメル氏はそのすべてに夢中になったことを覚えていると話します。 「インディーゲームの制作がサステナブルになった今、AAAゲームは死んだも同然で、誰もが仕事を辞めてインディーゲームを作るようになるだろうと考えた時期がありましたね。 無垢だったんでしょうね。 その頃、違う意味で世間知らずな講演会を2、3回行ったこともあります」

『グーの惑星』の伝説は、ガブラー氏とカーメル氏が地元のスターバックスの小さなテーブルの両側に座り、粗末なノートパソコンでゲームを作ったというものでした。 私が疑問に思ったのは、今では大富豪となった彼らが、同じようなやり方で続編に取り組んでいるのかということでした。
「そうですねえ… この大富豪は、1ドルあたりで買える量に基づいて朝食用シリアルを選び、サブウェイで『有料のアボカド』を追加することは絶対にしませんよ。だってそれは、アボカドを提供するための本当に無駄な仕組みですからね」とガブラー氏は説明します。 なるほど。「無料のオープンソースソフトウェアだけを使うようにしたり、『e』や『9』のキーが使えないノートパソコンでLinuxを動かしたりもしました。 だから、『World of Goo 2(グーの惑星2)』をいかに無駄なく構築するかどうかということは、それほど大きな決断ではないんです。 どんなことにも手を抜かないのが私たちのやり方です」
「私はMacを使っていますよ」とカーメル氏が口を挟みます。
「コンピューターは持っていません」と、謎の広報担当者、ダンディ・ウィーラー氏が間に入ってきます。
カーメル氏がさらに続けます。「私たち2人は年をとったし、家族もいるので、ゲーム制作にとても時間がかかることがわかっていました。だから助けを借りる必要があることもわかっていたんです」
「チームがあるからといって、洗練された、もしくはお金のかかる方法で『World of Goo 2(グーの惑星2)』を制作したのでは、上手くいきっこないですよ」とガブラー氏が付け加えます。 「このゲームの魅力のひとつは『やばい、今にも崩れそうだ』という手作り感だと思うんです。 すべてを粘着テープでつなぎ合わせたような感じなので、プレイヤーにはそれを楽しんでほしいですね」
ウィーラー氏がまた割って入ります。「これだから開発者には、記者と話をさせるべきじゃないんですよ。 2人が言わんとしているのは、『World of Goo 2(グーの惑星2)』は技術的にもアート的にも素晴らしい作品だということです」

『グーの惑星』のような作品を再び世に送り出すのは、極めて骨の折れる作業のはずです。 その反復的な性質や際限なく変化するコンセプトは、彼らが前作の制作時に最高のアイデアをすべて出し尽くしたであろうことをうかがわせます。 少なくとも、自分たちのベストに匹敵する必要があるという考えが、かえって妨げになるのではないのかと感じました。
「『グーの惑星』を再び訪れるとしたら、その世界でもここと同じように時間が経過しているべきです。そこで私たちは、その世界が実際にどうであったかではなく、自分たちが記憶している形に近い状態で再現するべきだと考えました」 つまり、前作の続きを作るのではなく、2024年の『グーの惑星』はどうなっているのかを考えるという発想に至ったわけです。 「以前はできなかったけれど、今ならできることとは何なのか?とね」 とガブラー氏。
その意味で最初の大きな変化は、『World of Goo 2(グーの惑星2)』で初めて現実味のあるグーが登場することです。 「『グーの惑星』にはグー・ボールが登場し、水の領域を大まかにシミュレートしていました」とガブラー氏は説明します。 「しかし、流れるような、ネバネバ、ドロドロした動きはありませんでした。 今はコンピューターの処理速度が格段に速くなり、実際に流れたり飛び散ったりするリアルなグーを作ることができるようになっています」
その結果、チームが続編の核とすべきと判断した液体物理学の実験へとつながったのです。 ガブラー氏が続けます。「そしてその過程で、私たちは自分たちにできるさまざまな面白い要素を発見し、こうして新しい能力を持った、何らかの方法で液体と相互作用する新種のグー・ボールが生まれました。 物理シミュレーションでは、いつも素晴らしい新たな発見があるんです」

今回のゲーム制作に携わっているチームが2人だけでないということは、そのぶんフレッシュな頭脳による新しいアイデアもたくさん取り入れられているはずです。 チームにはどんな人たちがいるのでしょうか? カーメル氏とガブラー氏に加えて、チームにはプログラマーのノエル・ロピス氏、アレス・ムラカル氏、ミゲル・アンヘル・ぺレス・マルティネス氏、アラン・ブルームクイスト氏、アーティストのピーター・ヘディン氏とジェイエパーソン氏、デザイナーのカイル・グレイ氏、ミュージシャンのジョニー・トレングローブ氏がいます。 そしてもちろん、広報を担当するダンディ・ウィーラー氏も含まれます。
前作では、プログラミングからアート、デザイン、音楽に至るまで、すべてガブラー氏とカーメル氏が手がけていたことを考えると、チームを拡大した今、仕事を人に任せることに苦労しているのではないかという疑問も湧いてきます。
「任せるというのはあまりないですね」とカーメル氏。 「それぞれが何かに取り組んで素晴らしい結果を生み出すんです。 チームの仕事ぶりを見て、プログラマーとしての自己評価は大きく下がりましたよ。 そのおかげで、個人的なキャリアチェンジについてより満たされた気分になりましたね」
二人はスタッフからできるだけ多くのものを引き出そうとしているようです。 「私は、カイルがいろんな人の才能をゲームに取り入れるやり方が大好きなんです。 たとえば、アレスはある曲でフラメンコ・ギターを弾いているんですよ!」とカーメル氏は語ります。

『グーの惑星』のあまり語られることのない側面は、その可愛らしいパズルと見事なメカニズムの根底に、資本主義に対するかなり激しい批判が込められていることかもしれません。 この15年間、いかに資本主義が順調に進んでいるかを考慮して、彼らが同じ問題を取り上げるつもりなのか、それとも何か他に不満に思うことがあるのかを尋ねてみました。
「不満ならたくさんありますよ」とガブラー氏。 「とはいえ、ゲームデザイナーとして、資本主義のように賢いものをデザインできたらと思うのも事実です。 資本主義があるからこそ、素晴らしい製品が徐々に、より安価に作られるようになるんです。 もし誰も物を買わなかったら、より良いもの、より速いものを常に手に入れることはできないでしょうからね。 そして、私は物が大好きなんです! 私はこのクリップ動画についてよく考えます」
もちろん『World of Goo 2(グーの惑星2)』には揶揄が含まれています。 ガブラー氏は続けます。「ゲーム内の大きなテーマの場合もあれば、私たちをイライラさせるもの、私たちが大好きなくだらないものに対する、受動攻撃的なちょっとしたツッコミの場合もあります」
これをきっかけに、また一緒に組んで活動するのでしょうか? 3作目、4作目も期待できる? あるいは再結成ツアーもアリ?
「もう二度とゲームを作るつもりはないです。だから、今回の作品は良いものにしないと」とカーメル氏。
「シェールの引退ツアーと同じですね」と言うのはガブラー氏。 「もう二度と他の作品を作れなくなるくらい、このゲームにありったけのアイデアを詰め込みたいですね」
最後は広報担当のダンディ・ウィーラー氏がとどめの一言。「はいはい、お涙頂戴のインディーデベロッパー諸君。 君たちがまた戻ってくることくらい、みんなわかっていますよ」